ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

あべこべ Shall We ～？

●手をそえて
　甘いお菓子で空腹を満たし、ダンスの輪に加わった早坂恩と御薗井Ｅセレッソ。
　踊りまショ！　と声をかけたところで、恩がすっと手を差し出した。
「それじゃあセレッソちゃん、リードをお願いしてもいいかしら？」
　この瞬間まで、どうもセレッソは大事なことを忘れていたらしい。
　そうだ、ペアダンスなのだから手をつながなければ。
「えへへー、お手をどうぞお姫さま！」
　目の前の先輩があまりにもお姫さま然とした格好をしているものだから、
　ついそんな言葉が口をついて出てしまった。
「……な、なんでもないノ！　踊りまショ！」
　笑顔で取り繕うセレッソだが、恩も満更でもなさそうだ。
　三拍子の軽快なリズムにのり、二人だけのワルツを踊る。
　決して体の強くない恩にあわせて歩幅は小さめに、けれどリズムは崩さずに。

　恩の白く細い指が、小さな手に握られていた。
（「センパイの手、いつ見ても綺麗なのネ」）
　手をつないで踊る中で、セレッソは自分がこうまで上機嫌になっている理由を悟る。
　いまセレッソがつないでいる手は、霧の中で出会った恩の手だ。
　しっとりとした綺麗な手はこれまでも、ひまわり畑へ、おしゃれなカフェへと、
　セレッソの知らない新しい世界へ導いてくれた。
　毎日手入れを欠かさない恩の、優しい匂いにつつまれたこの手は同時に、いつもセレッソのことを気遣ってくれている。
　自分の中にあるワクワクドキドキの理由が、ほんの少しだけわかった気がした。
（「ワタシ、恩センパイの手、好きなんだワ……！」）
　思わず頬ずりしたくなるのをこらえて、かわりに満面の笑顔で跳ねるようにステップを刻む。
　曲が終わるまで、二人のステップがやむことはなかった。