ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

●靴音はねる
　すっごい、すっごいノ！　そんな声を響かせ、御薗井Ｅセレッソが駆け回る。
　パーティ会場の片隅には各種ソフトドリンクやビュッフェ形式の料理、そして色とりどりのお菓子が用意されていた。
「ほんとにすごいわねえ。あれはもしかして、本物のワインかしら」
　早坂恩の視線の先には、一瞬ワインかと見紛うほど立派なボトルに入った葡萄ジュース。
　パーティの雰囲気を出そうと旅鴉月詠が用意したものだった。
「ドリンクとお菓子をとってくるノ！　転ぶと大変だから恩センパイはちょっと待っててネ！」
　そういってセレッソはバーカウンターの傍にあるサイドテーブルの方へと向かった。

　カウンター近くのテーブルには、二人にとって見慣れたお菓子が盛り付けられている。
「わ、テンチョーサンのにくきゅうマカロンがあるノ！　ぷにぷにナノ！」
　焼きたての栗と木の実のプチタルト、和梨とりんごのゼリー、そして猫の肉球を模したマカロン。
　これらは荒井景貴の営む洋菓子店『Raton』の名物だった。
　『Raton』はセレッソにとっても恩にとってもお気に入りの店、目移りするなという方がむずかしい。
　悩んだ末にガトーショコラ＆ティラミスを一切れずつ、それにマカロンの赤と茶を取り皿に盛れるだけ盛って、セレッソは恩のもとへと戻った。
「お待たせナノ！　……どうかしたノ？」
　呼びかけられてハッとしたように振り返る。
　いつのまにかパーティの雰囲気にのまれていたらしく、恩は会場を半ば放心状態で眺めていた。
「ううん、なんてことないわ！　ただ、こうしてると私、すっかり壁の花ねえって」
　自嘲気味に笑う恩。
　あくまで冗談めかして言ったのだが、セレッソは真剣に受け取ってしまったらしい。
「た、大変ナノ！　華は華でもさびしい花は駄目よネ、Mi scusi！」
　本当に申し訳ない、といった感じに謝るセレッソ。
　自分にできることはないかとパーティ会場をみまわして、まだ肝心のダンスを踊っていないことを思い出す。
「センパイ、踊りまショ！　せっかくのダンスパーティナノ、お菓子食べて元気出たらレッツゴー、ナノ！」
　セレッソの小さな手のひらが、恩へと差し出された。