想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

　料理作りに励んでいた橘千歳の動きが急に緩慢となった。出来上がった出汁巻き卵を大皿に乗せて食卓に運ぶ。
「……少し作り過ぎたかな」
　小分けされた容器が食卓に並んでいた。炊き立てのご飯は米粒が光って見えた。肉じゃがときんぴらごぼうは艶やかな光沢が食欲をそそる。シーザーサラダにはスライスしたレモンがトッピングされていた。魔法瓶には鍋で煮込んでいるオニオンスープが入る予定となっている。
「いつもの朝練と違って刀君はお弁当を持ってくるのにね」
　千歳は苦笑して皿の出汁巻き卵をナイフで等分に切った。その一つに注目した。
「可愛らしさに欠けるわね」
　少し考える素振りを見せて、そうよ、と明るく言った。
　千歳はいそいそと海苔を取り出し、調理用の鋏で様々な形に切り取っていった。数が揃ったところで輪切りにされた一つを横にして、切り取った海苔を貼り付けた。楕円に縦線が入った目に口と髭を付けて猫が完成した。
「何かおかしいような……耳がないのよ！」
　気が付いた千歳は小さなティースプーンを持ち出した。耳に当たる部分にスプーンの先端を刺して軽く撥ね上げる。
「耳に見えるし、ちょっと可愛いかも」
　鼻歌に合わせてポニーテールが左右に揺れる。千歳の手によって大量の猫が生み出された。向けられる眼差しは親猫のように優しい。
「小山内さんのお弁当はどうなのかな」
　素の表情に戻って最後には誇らしげな笑みを浮かべた。