放課後を迎えた生徒達が各々の目的に向かって教室を出ていく。
綾辻 綾花も、その一人であった。せかせかと廊下を歩いていると、
七夜 あおいを目にした。少し丸まった背中が寂しそうに見える。
綾花は速足で近づいて声を掛けた。
「あおいちゃん、何か心配事でもあるのですか?」
「あ、綾花ちゃん。自分で作ったお弁当の味が、ちょっとね」
あおいは困ったような顔で笑う。
「料理は得意なので私が手取り足取りで教えましょうか」
「その方法なら上手に作れるとは思うけど――」
言葉を切ったあおいは考え込むような表情を浮かべる。数秒の間で溌剌とした態度を取り戻すと、綾花の目を真っ直ぐに見て言った。
「私が綾花ちゃんに甘えちゃいそうだから、遠慮しとくよ。その替わりに料理の手順を教えて貰えるかな」
「私は構わないですが、本当にそれだけでいいのですか?」
「十分よ。あとは自分の力で頑張って美味しいお弁当を作るわね」
「青い目の娘よ、天晴な心掛けじゃ!」
その声は綾花の胸の辺りから聞こえた。しかし、二人の耳には届いていないのか。まるで反応が無かった。
「この弁当の神が一肌脱いでやるか!」
綾花の胸の膨らみをソファーに見立てた老人が座った姿でいきり立つ。伸ばし放題の白髪は目元を覆い、口元の白い髭と一体化していた。自称神様を証明するかのような容姿である。
通り掛かった司書教諭の
早川 珪が優しい笑みを湛えて近づいてきた。
「もしかして日曜日に催される、ピクニックの話をしているのかい?」
「珪先生……ピクニックのことは知りませんが、日曜日にあるのですか?」
綾花は珪の持っていた紙の束に、それとなく目をやる。その視線に気付いた珪はにこやかな表情で言った。
「市民団体が起ち上げたピクニック会が、日曜日に向けて大々的な宣伝をしているんだ。僕は正式な会員ではないけれど、知り合いの関係でチラシ等を配る手伝いをしている。駅や役場、それに店舗にも声を掛けてチラシを置いて貰っているんだよ」
「そうなのですか。そのピクニックに私やあおいちゃんも参加していいのですか」
綾花は控え目な口調で尋ねた。
「もちろん歓迎するよ。天気予報では日曜日は晴れるらしいね。ピクニックには持って来いだ。詳しい内容はチラシに書いてあるから」
チラシを受け取った綾花は内容に目を通す。
「お弁当を持参ですか」
「そうだよ。僕は料理全般が苦手だから、どこかでお弁当を買うことにするよ」
「あ、あの、珪先生のお弁当を私が作りましょうか。あおいちゃんとも話をしていたところなので……」
自身の大胆な発言に遅れて顔を赤くする。珪は純粋に喜んだ。
「助かるよ、ありがとう。週末が楽しみになったよ。手料理は美味しく感じるからね」
「その通りじゃ! 調理法では分からぬ、美味さが秘められておる! 愛情や友情が籠った手作り弁当は最高の逸品なのじゃ!」
興奮した老人は手足をばたつかせた。その勢いで胸の上から転がり落ちそうになる。いかんいかん、と早口で呟いて顎鬚を撫でた。落ち着いたところで再び語り始める。
「最近の料理は見た目は良いが、気持ちを蔑ろにしておる。この島の神秘にワシの力を合わせれば、想いの籠った弁当の有難みを分からせることが出来るじゃろう。ワシとしても今週の日曜日が楽しみじゃ」
ヒッヒヒヒ、と老人は神様らしからぬ陰湿な笑い声を上げるのだった。
今週の日曜日、寝子島で食べる弁当に何かが起こる。
事情を知らない綾花は笑みを抑えられない様子で学校を後にした。
今回のシナリオはプロフィールコンプリート☆キャンペーン応募トピックで、
サンマ賞にご当選なされた綾辻 綾花さんを主題にした内容になっています。
手作りのお弁当を楽しむシナリオです。ほのぼのとした日常の一場面のように思えますが、
そこに小さな神様が強引に登場します。何か力を使うようなので、若干、日常から離れてしまうかもしれません。
ピクニック会について
① ピクニック会は市民団体が起ち上げた、ピクニックを主な活動にしている非営利団体です。
今回はピクニックを楽しむことが目的になっているので、行き先を定めていません。
参加した人々が好きな場所に向かうことになります(早川先生一行は寝子ヶ浜海岸に行くようです)。
チラシの情報を知らない場合でも「偶然に通り掛かった」という風に参加は可能です。
お弁当を持参していない場合は途中で購入するか、または誰かに分けて貰うことが出来るかもしれません。
② 集合場所は寝子島駅となります。午前九時半から集まり始めて十時には出発です。
③ 解散場所は指定されていないので駅に戻ってくる必要はありません。
各自が決めた場所で解散となります。
自称、弁当の神様について
① 弁当の神様の声を聞くことは誰にも出来ません。姿も見えないのでアクションには書かないようにしてください。
② 弁当の神様は神魂を利用して、寝子島の範囲内でお弁当に籠められた想いを旨味に変えます。
愛情や友情が強い程に味が向上します。十段階の味の評価で最高値は十になります。
想いの籠ったお弁当は元々の食べさせる相手以外でも数字の通りに味わうことが出来ます。
例外としてお弁当を用意した本人は数字の影響を受けません。元の味で食べられます。
味の目安として簡単な表を提示します。アクションには「弁○」と○の部分に数字を入れてください
(数字がない時は状況を見て判断します)。
一 二 三 四 五 六 七 八 九 十
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凶悪な味 普通の味 至福の味
③ 味の効果は日曜日の一日に限定します。月曜日以降には元の味に戻っています。
※想いが味に変換されるので本来の味は一時的に失われます。
NPCについて
今回は七夜 あおいと早川 珪の二人になります。それ以外のNPCは登場しませんので、
アクションには書かないようにしてください。
細々と書いてきましたが、簡潔に言いますと想いが味になるのです!
PCの食材の好き嫌いに関係なく、数字の味が優先されるのです!
見た目が良くても想いの全く籠っていないお弁当は凶悪なのです!
作る手間を惜しんでレトルト等のおかずを、お弁当に混ぜていると地雷になるのです!
出来合いのお弁当はとても強力な地雷原なので食べるのに勇気が必要です!
ですが、お客様想いの手作り弁当屋さん等が作るお弁当は意外と美味しくて、数値も高いかもしれませんよ。
そうそう、レストランや家で食べる料理はお弁当に含まれません。のんびりと食事を楽しむことが出来るでしょう。
想いを籠めたお弁当を持って皆さんはどこに行くのでしょうか。
あなたのお弁当の活躍に期待しています!