想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

　東の空が薄っすらと白み始める。鬱蒼とした木々の向こうから野鳥のけたたましい囀りが聞こえてきた。天然の目覚まし時計に効果はなく、猫鳴館はひっそりと静まり返っていた。
　その中、微かな足音がする。空いた土地を利用して作った裏庭菜園でジャージ姿の森蓮が野菜の収穫に追われていた。

「鮮度と栄養を考えますと、朝の収穫が一番です」
　はち切れんばかりに膨らんだ赤いトマトを剪定鋏で摘み取る。ヘタの周囲の果肉が盛り上がった部分に鼻を近づけて大きく息を吸い込んだ。
「香草のような良い匂いがします」
　口数は少なく、とにかく手を急がせた。ちらりと見やる東の空は急速に明るさを増して青い空が見えるようになってきた。
　蓮は胸にトマトを抱えて畑の傍のリヤカーへと運ぶ。ビニールシートを敷いた上には太さや長さのまちまちなキュウリが大量に積まれていた。拮抗する量のトマトが隙間を埋めていった。
「量は足りると思うのですが」
　蓮は畑に目を移した。紫色の可憐な花を付けた側に大ぶりのナスがぶら下がっていた。太くて艶やかな色は収穫の時期を迎えている。
「ナスは生食には向きません」
　仕方がない、と頭を振って諦めた。空の色で大体の時刻を予想した蓮は猫鳴館に戻って顔や手を洗った。
　出発の直前、蓮は改めて手に入れたチラシに目を落とす。
「収穫した野菜は皆さんに喜んで貰えるでしょうか」
　不安を口にしながらも表情には柔らかい笑みが浮かんでいた。