想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

「賑やかな連中だ」
　ひびきは冬華の作ったサンドイッチを頬張る。細めた目で口を動かして、美味いな、と何度目かの言葉を送った。
「ありがとうございます。ひびきさんの卵焼きも甘くてとても美味しいですよ」
「そうか。まあ、見た目はちょっと黒いけどな」
「全然、気になりませんよ」
　微笑む冬華に戸惑うような視線で、ならいい、と素っ気なく言って俯いた。目に付いた鶏の唐揚げを指で摘まんで一口にした。小気味いい音をさせる。
「いくらでも食べれそうだ」
　微かに油の香る指を舐めたひびきは言葉の通り、唐揚げに手を出した。
「私はひびきさんのおにぎりを貰いますね」
「ばあちゃん特製の海苔の佃煮は美味いよ」
「おかかの具でした、醤油と、マヨネーズでしょうか。とてもよく調和していて美味しいです」
「それはあたしが作った具だよ。あのさ、形は諦めて貰ってだな。握り方はどうだ？　柔らか過ぎってことはないかな」
「ちょうどいいと思いますよ。口の中でお米が解ける感じですね」
　ひびきは口元で笑うと、色鮮やかなブロッコリーを口の中に放り込んだ。食べている間に表情は柔らかくなる。
「あたしのメインの発表だ」
　後ろに控えていたプラスチックの箱の蓋を一気に開けた。丸まった竹輪が元に戻らないように爪楊枝が刺してある。似たような形でアスパラを巻いたベーコンも収められていた。
「どうしましょう」
「ん、何がだ？」
　冬華は膝元に置いていた小さな容器の蓋を取った。爪楊枝に刺された一品を見て取れる。
「アスパラベーコン、被ってたか。やっぱり弁当の定番だよな」
「そこれ、これらー。絶対に被ららい、おはぎとうさぎ饅頭ぅー」
　祐は不安定に揺れながら容器を差し出した。肩を貸していた渚砂が困ったような笑みで何度も頭を下げた。
「ＴＡＳが二人にも食べて欲しいみたいで、どうかな？　味はお兄さんの保証付きだぞ」
「見た感じは悪くないけど」
　ひびきは祐の状態を見て渋い顔になる。それに反して冬華の顔は綻んだ。
「とても素敵な和菓子ですね。ひびきさん、ちょうどいいですよ。私が持ってきた水筒にはお茶があります」
「北条がいいなら」
　ひびきは不機嫌そうにしながらも受け入れた。容器の蓋を皿にして冬華が和菓子を取り分ける。
「目的を果たせたのでお兄さん達は、これで失礼するよ」
「ちょっと待ちな」
　ひびきは立ち上がると祐の容器を強引に奪い取る。空いているところに自作のアスパラベーコン巻きを大量に詰め込んだ。
「酒のツマミにはなるだろ」
　祐に代わって渚砂が受け取った。ありがとう、と言われたひびきは瞬時に背中を向けた。
「そんなのはいいから」
　追い払うような口調で頬を赤く染める。横顔を目にした冬華は笑みを絶やさずに、可愛いですね、と甘い声で囁いた。
「北条、何か言ったか」
「うさぎ饅頭がとても可愛いです」
　冬華の言葉で改めて目をやる。去っていく二人の背中を横目で見て、そうだな、とひびきは優しい目で答えた。