想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

　旅人のような姿で旅鴉月詠は星ヶ丘の寮を出た。

　鍔が広い茶色の帽子の横には目の色と同じ赤い羽根が刺さっていた。茶系の薄いコートの裾を翻し、緑色のハーフパンツから伸びた脚でしっかりと地を蹴って歩く。背中の赤いリュックサックは軽い印象を与えた。
　真っ直ぐの道を軽やかに歩いていく。次の瞬間、右手の路地へと入り込む。見逃せない瞬間は全てスケッチブックの中に手早く収められていった。
　月詠は道端にいるカマキリを目にした。しゃがんで見つめていると風がない状態で全身を揺らし始めた。
「風に揺れる草の真似だね」
　素早く描いたあと、閉じたスケッチブックで草むらの方に押しやった。急かされたカマキリは足早に歩いて細い葉の上に陣取り、ゆらゆらと揺れ始めた。
「それが正しい擬態というものだよ」
　すっと立ち上がった月詠はコートのポケットに手を突っ込んだ。旅人らしい格好で旅を再開した。
　途中、塀の上を歩く猫と競って大きな通りに出た。斜向かいに白い星ヶ丘駅が見える。駅に向かうのかと思えば、そっぽを向いて左手の道を選んだ。
「程良い疲れが弁当を美味しくするのだよ」
　変わらない歩き方で月詠は自身が決めた道をゆく。