想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

　空にはほとんど雲がない。陽射しは真夏の頃よりは柔らかい。
　寝子ヶ浜海浜公園の芝生に相手に合わせた花柄のシートを敷いて、その上に唐沢一也が仰向けに寝転がっていた。黒いシャツの胸をはだけて組んだ足が指揮棒のように揺れている。
「こんな空の下で弁当なんて、何年ぶりかなぁ」
　頭の下に入れていた手を抜いて、ゆっくりと上体を起こした。海が間近に見える。緩やかな風が刺々しい金色の髪を優しく撫で付けていった。
「のんびりもいいが、どうにも指が疼くっつーか」

　一緒に寝そべっていたケースを開けた。渋い色合いのベースを取り出すと、ストラップを肩に掛けて演奏の体勢に入った。
「こんな日はピックじゃないよな」
　ピアノの鍵盤を弾くような指使いで弦を押さえた。深みのある音を響かせて緩やかな風に音を乗せる。表情は穏やかで自然とのセッションを心から楽しんだ。
「……夏のネコフェス、熱かったよな」
　ベースの音が早さを増してきた。気付いた瞬間、親指を弦に叩き付けて仕切り直した。
「腹が減ってきたな」
　上体を捻ってビニール袋を引き寄せた。中に入っていた硬そうなパンを袋から出して齧る。渋い顔で何度も口を動かして飲み込んだ。
「パサパサ過ぎんだろーが」
　ベースをケースに収めると、一也は再び寝転がった。薄く伸ばしたような青い空を見つめた。
「神無月の弁当に期待するか」
　遠い目をした一也は頭の後ろに手をやり、そっと瞼を閉じた。