想いが籠ったお弁当｜リアクション

想いが籠ったお弁当

　黒滝竜也が台所に立った。身長が高く、肩幅は広い。厚みのある身体で半袖シャツが張り裂けそうなくらいに腕は太い。それでいて繊細な菜箸の使い方できんぴらごぼうを炒めていた。ほとんど汁気は無くなり、完成は間近であった。
「これでいいか」
　鍋に入れた状態で放置して、茹で上がったジャガイモを手にした。次々とボウルに入れると、黒々とした眉尻を上げて雄々しい顔付きとなった。
「本当の意味で手作りだ」
　気合の声と共に掌でジャガイモを押し潰した。相撲取りの張り手に似ている。
「マヨネーズで味付けをすればいいな」
　柔らかい容器を一握りで豪快に絞り出し、菜箸でこねくり回した。他人の想像が及ばない方法でマッシュポテトは出来上がった。
　唐揚げは薄味を心掛け、片栗粉を塗して少量の油で炒めた。重箱に入れる際に細やかな配慮でレモンの切り身を付けた。
「おにぎりの具はこんなもんか」
　手間を掛けた梅肉がこんもりと皿に乗っている。花鰹に適度に醤油を塗した物は匂いが香しい。それと炒めて身を解した鮭を用意した。
　大きな身体で器用に三角のおにぎりを作っていく。遊び心も忘れずに不規則に重箱の中に収めた。
　蒲鉾は少し無理をして鱧のすり身の入った物を選んだ。包丁で板から分離して一センチ弱の厚みに切り分けた。
「最後は出汁巻きだな」
　生地は出来ているので掌に少量を乗せた。口に含んでゆっくりと味わう。
「少し甘味が足りないか」
　ほんの少しミリンを足して焼き始めた。リズムを刻んでいるように見える。膝を柔らかく曲げて伸び上がると連動して生地を巻いていく。合計で六本の出汁巻き卵を大した焦げ目もなく作り上げた。
「これだけあれば、皆にも十分に分けられるな」
　竜也は表情と共に締めていたネクタイを緩めて言った。