映画村から逃走したもの｜リアクション

映画村から逃走したもの

【一方その頃……こちら、忍者と併走中】

「さぁ、みんなで追いかけましょう！」
　シーサイドモールへ向けて爆走している超脚飛脚（ちょうきゃくひきゃく）のシノビ。
　それに併走するかのように並ぶのは、奈良橋博美。
　博美が言葉を発すると、すでに協力要請の連絡を受けていたスタッフらが一斉にその追いかけっこに混ざり始める。
「なんだなんだ？」
「どしたどした？」
「追いかけろ！」
　一般人に紛れ込んだ撮影スタッフらは、博美らに比べるとだいぶ遅いが、まぁ、コメディ絵になっていないことはない。
「撮影中でーす！」
「ど、どうしてこうなったんでしょう……」
　シノビは、困惑していた。
　スピードで翻弄しつつ強そうな相手の懐に一撃加えて死に至らしめる……そして、そのスピードを大事にした戦いをやりたかった。
　が、なぜか女子に追いかけられ、その後ろからぞろぞろと何人かが走ってくる。
「……あぁ」
　強い失望感がシノビを襲う。
「だんだん逃げ足が鈍ってきているじゃんか」
「っりゃぁ！？」
　博美に追いつかれたとき、苦し紛れに針を放つも、ぽーんと彼女は大きくジャンプをしてよけてしまう。
　ろっこん『トンビの飛翔』である。
「やややっ！」
「どうだ！　まいったか！」
　博美が息を切らして追いつく、場所はシーサイドモールの手前。
ようやくシノビが止まったのだ。
「……はぁぁぁぁぁ」
　大きくシノビは息を吐いた。
「おっと、勝負か？」
「参りましてございます！」
　どんっ！　シノビは鮮やかな土下座を決める。
「へっ？　いや……？」
　突然の事態に博美は困惑する。
　用意していたシナリオもちょっと頭からとんでいるようだ。
「しからば、映画の中に戻ります……あぁ、意味のない世界でした」　
　どろん、と煙を立ててシノビは消えてしまった。
　なんとなく、フィルムの中に戻ったんだろうなと博美は思った。
　ざわ……ざわ……。
「え、今人が……消えた？」
　その様子を見ていた一般の人が少し不審に思ったのか騒ぎ始めた。
「はいはいはい、これ映画の撮影です！」
　慌てて、用意していた展開の為に宣伝するかのように叫ぶ。
「ども～」
　機材を持ったスタッフも出てきた。
「マキノ監督の次回作にご期待くださ～い！」
　博美のその言葉に、あぁ、あの人かと騒ぎは沈静化していった。
「……よくわからないけど、うまくいったな！」