映画村から逃走したもの｜リアクション

映画村から逃走したもの

【ニシキとの話】

「何かお困りですか？」
　寝子島神社にたたずんでいた花街小町（はなまちこまち）のニシキに話しかけたのは、八神修である。
「こりゃ、若い子が来んしたな……現（うつつ）の恋は如何様かとふと、思ったでありんして」
　ほぅ、と息を吐いて修を見るニシキ。
「現の……恋？」
　修は、郭言葉風の言葉との会話にやりにくさを感じつつも
「戦いに来んしたでありんすかぇ？　それとも、可愛がられに来んしたのかぇ？」
「……話し合いです」
　くすくすと、笑うニシキに、修は切り出す。
　なぜ、ここに来たのか？
　時代劇の世界とは、どういう世界か？
　そして、この世界で何をしようとしているのか？
　しかし、そういった舌戦は相手の方が一日の長がある。
　曖昧な答えがすべて返ってくる。
「……む」
「うまくいかないと、僅かだけ皺が寄るんでありんすなぁ」
「うっ」
「どうなんした？」
　からかうような発言に一瞬心が動くが慌てて沈める。
（冷静に、冷静に）
　修はそう自分に言い聞かせる。
「あぁ、モシ、わっちゃたった一つ、願いがござんすよ」
　はた、と思い出したように言うニシキ。
「聞きましょう、出来る範囲内で」
「……もっとも甲斐性を見せてほしいのでありんすよ」
　すすっと修の近くまですり寄ってきて、上目遣い、ちらりと見える白い肌……妙にエロい。
（うっ）
　耐性がどうの、というわけではない。
　男を意識した仕草が妙に憎いだけである。
『戦って倒すのではなく、親愛をもって接し、満足させ、かつ、人生への姿勢に心の何処かで”負けた”と思わせたい』
　そのプランは今、絶賛崩壊中である。
　相手の花魁という設定が修をやりにくくしている。
花魁は、ありとあらゆる手段で男をめくるめく世界へ導きその一夜を楽しむために作られた……という説もある。
（花魁という設定がなぁ……設定？　誰かこの映画みたやつが居るんじゃないか？　しまった！　色々と濃いうちの島民だから誰か見ているはずだ！）
　にじり寄るニシキ、にこやかに会話する修……その裏で、こっそりと修は原作知識のある人間がいれば、その人の手を借りればいい、というアイディアを流す……。
　さて、この勝負いったいどうなるのだろう。

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