怪人セブンの断罪｜リアクション

怪人セブンの断罪

【水曜日：放課後シーサイドタウン駅　ユニコーン・１】

　水都乃れいは放課後、シーサイドタウン駅で絵を描いていた。
　群像を描きながら、奇行や喧嘩、トラブルなど、些細な事件が起きないか注視しているのだ。
「……この島で一番利用者が多いこの駅付近なら、なにか情報が得られるはずだ」
　そう踏んでかれこれ１時間弱。
　――水都乃は落胆していた。
「絵ばかり進んで、捜査が進まず、か」
　収穫なしなんて悔しいので、せめて毎日この駅を見ている駅員に話を聞こうと思い立つ。
　駅構内へ入ろうとすると、水都乃は寝子高の男子制服を着た人物が駅員と押し問答をしているのを発見した。
　これは事件の手がかりになるか？
　そう期待しつつ、諍いの輪の中へ水都乃は割って入っていく。
「……失礼。何をしている、君は？」
　声を掛けられた人物の顔を見て、おや、と首を傾げた。
　その人物は男性ではなく、水都乃と同じく男装の女子生徒だった。
「ああ、いいところに寝子校生が来てくれたぜ」
　奈良橋博美は頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。
「学校の課題で、町の働く人のことをレポート用紙にまとめなきゃならないのに、この駅員さん、取材を嫌がるんだぜ？」
「俺は忙しいんだ！　他を当たれよ！！」
　ブリブリ怒りながら奈良橋を引き剥がそうと必死な駅員。
「ほら、これ、『１年の共通課題』だろ？　俺一人じゃ完成出来るか『怪しい』しさ」
　奈良橋が水都乃へウィンク一回。
　それで水都乃も理解できた。課題とは方便で、奈良橋も偽セブンについて調べているのだ。
（そして、この駅員が怪しいってことか。確かに、子供が取材を頼んだだけでこの激怒と拒絶……。何かあるな？）
「そう、だな。私も課題選びに難儀していたところだ。君さえよければ、協力しよう」
　水都乃が頷けば、奈良橋は破顔してサムズアップ。
　そして、駅員の名札をチラ見しながら言った。
「おう、助かるぜ！　えっと、駅員さん……沢木さん？　なあ、下の名前も教えてくれよ」
　奈良橋が更に食い下がるも、沢木は歯を剥き出しにして怒鳴り散らした。
「沢木壱角だ！　難しい漢数字の「壱」にツノだ！　さぁ、もう充分だろ？　仕事の邪魔だ！　お前らみたいな奴と俺とじゃ格が違うんだ！　さっさとあっち行きやがれ！」
　沢木の怒鳴り声とともに、２人は駅を追い出されてしまった。
「明らかに怪しいな……」
「ああ、何か隠してるよなー」
　と、ここでお互い顔を見合わせ、あることに気が付く。
　お互いの自己紹介が、まだだった。