怪人セブンの断罪｜リアクション

怪人セブンの断罪

【土曜日：日中　旧市街　ドラゴン・３】

　神出鬼没は旧市街の空き地で桜庭たちとサッカーをしている滝川を見付けた。
「おー、滝川ー！　久しぶりさねー！」
　駆け寄ってくる神出鬼に気が付くと、一度会釈をする滝川。
「神出鬼、お久しぶりです。――相変わらず小さいですね」
「いや、それほどでもないさね！」
「褒めてないぞ、それ？」
　笠原が冷静につっこんだ。
「あ、桜庭！　天野から伝言！　『日曜日、僕含めて３名そちらへ合流予定だよ』だって！」
「分かったよー！　ありがとう、って伝えてねー！」
　桜庭の声を聞き、手を振りながら走り去っていく神出鬼。
　まだ配達が残ってるのだろう。

　李小麗は芹沢と神野の情報から、滝川がもれいびであり、接触が発動条件だと推測していた。
「龍平、手を握ろうなのだ」
「やめたほうがいいですよ」
　滝川が拒絶した。これで李の推理は確信へと変わる。
「無理にとは言わないのだ……。でも、力を制御できないのなら、言ってほしいのだ」
「わたしはみなさんと違って不思議な力はありませんが、悩んでいるなら吐き出したほうがいいですよ」
　森蓮も自然な形で滝川の言葉を促す。
「先輩たちも、ろっこんが？」
　森以外の【龍】班は全員頷いた。
「……じゃあ、触ってみれば分かります。多分、触られると勝手に発動するみたいで……」
　滝川の言葉通り、李と森は滝川に触れた。

　突如、体中を駆け巡る激痛。
　見えるはずのない中学の教室の風景。
　自分が殴られている感覚。
　周囲の対応に絶望する鬱屈さ。

　全てが追体験となってフィードバックされてきた。
　まだ『ひと』の森がいたからか、嘔吐感だけで２人は済んだ。
「酷すぎます――！　滝川さんが味わった絶望が分かりました……！」
　性善説が信条の森でさえ心が折れそうになるトラウマ。
　滝川の顔が曇る。
「ろっこん『トラウマパンデミック』。他人から触れられると、僕のトラウマが相手の追体験として具現化されるんです。初めは『これで僕のことを理解してもらえる』と喜びました。けど……」
『さらにこどくになった』
　小山内が端的に言い切った。
「だから神様をやっつけようと？」
「そうだよ！　押し付けられた力のせいで僕のフツウは滅茶苦茶だ。神様なんか、いなくなればいいんだ――！」
　桜庭の問いに怒り散らす滝川！
　偽セブンの書き込みは、滝川のものだった。
　だが、桜庭は滝川を問い詰めようとしたりしなかった。
「この力はね、ボールと一緒なんだ。友達と遊ぶ事もできる、人に蹴って凶器にする事も出来る。要は自分の心と、ろっこんを、知って理解してあげる事だよ」
　実際にボールを凶器にしてしまった手前、とても説得力がある言葉だ。
「龍平、しゃおりーは友達のままでいるのだ」
　それでも再度、手を握る李。脂汗が滴り落ちるのは、トラウマを追体験しているからだろう。
「セブンから龍平を守るのだ。だから神様を傷付けないでほしいのだ」
「私は貴方を理解します」
　森が汗を拭いながら答えた。
「私は特別な力を持っていません。ですが、その力を有した事は、誰かを傷付けていい口実にはなりません。その力を制御したり、活用できる用途を考えませんか？」
　否定的見解に対して、違う解釈や変化の可能性を示唆する森。
　だが、滝川は何も答えず、ただ逃げるように走り去っていった。

「少年、乗れ」
　セルゲイ・ボスコフが手配した車に滝川を強引に乗せる。
「――君は神を殺したいのだろう？　少年にはその資格がある」
　手渡される１本のナイフ。
「彼らは君を心配していない。君に神を汚されるのを恐れてるだけだ。『悪魔の策略に対して立ち向かうために、神の全ての武具を身に付けよ』……。君が特別であるなら奴らは君を狙う。これはいじめと同じだ」
　明日の14時、海浜公園で神を討て。
　そう言い残し、セルゲイは運転手に滝川の家まで送り届けさせる。

　――滝川は、渡されたナイフを握り締めた。