怪人セブンの断罪｜リアクション

怪人セブンの断罪

【金曜日：放課後　星ヶ丘　スウィート】

「やってらんねぇ……」
　屍骸は不貞腐れていた。
　目の前には、リア充がいた。
　添木牡丹と戌井創が終始キャッキャウフフしてるからだ。
　たまたま同じ方面を捜索するというので一緒に向かったはいいが、強烈なアウェー感に屍は苛まれていた。
「添木後輩も誘えば良かったぜ。それよりも、おふたりさんがそういう仲だったとはな……」
　ジト目の屍に戌井が顔を赤らめる。
「ち、違うよっ！？　添木先輩とは、そんな深い仲じゃ……」
「そ、そうですぅ～。戌井君は可愛いですけど、まだ、その、友達、ですから――！！」
　牡丹も絶えず「ふえぇぇ～！」と連呼しつつ狼狽していた。
「あーあー。皆まで言うな。俺は気遣いの出来るゾンビだぜ。俺は自寮の猫鳴館の捜索に回るわ。あそこなら単独でもセブンに襲われねぇだろ」
　じゃあな、と向ける屍の背中は漢の哀愁に満ちていた。
「行っちゃいましたね……」
　戌井が照れながら添木を見詰める。
「そ、そうですねぇ～……」
　牡丹もぎこちなく見詰め返す。
　しばらく、沈黙……。

「「あのっ」」

　喋るタイミングが被ってしまった。
「……先輩からどうぞ」
「……戌井君からどうぞ」
　再び沈黙……。
　
「「あのっ！」」

　……このやりとりが、あと５回続きます。

　戌井の星ヶ丘寮の入寮許可が降りると、早速寮内を捜索する牡丹たち。
　星ヶ丘寮は寮と名がつけど、この一区画自体が地中海沿岸の港街を思わせるような『街』になっている。
　なにせ、部屋＝家屋な概念のこの寮。当然１人で住むには広すぎるため、１階と２階別々というようにシェアする生徒もいるようだ。
　寮の中に飲食店は、セレブな生徒たち御用達。
　さらに区画は西と東に分かれている。
　初めての星ヶ丘寮内の様子に、戌井は少々興奮気味だ。
「添木先輩って、こんな豪華な場所で暮らしてるんですね！　執事さんやメイドさんがいる寮なんて初めてっ！」
「毎日見てると、別段、なんとも思わなくなりますよぉ～？」
　はしゃぐ戌井の姿に、牡丹の鼓動がトクントクンと早くなる。
　それを悟られないように精一杯、先輩らしく気を張りながら寮内を案内且つ見回りを行っていく。
「添木先輩！　あっちにテニスコートがあるよ！　寮内にあるんだ、すごい！」
　精一杯、先輩らしく気を張る牡丹。
「わぁ！　ここから海が一望出来るんだね！　羨ましいなぁ！」
　精一杯……、先輩らしく……、気を張り続ける牡丹。
「えへへ、爆弾捜索しなきゃなのに、寮内が物珍しくてそれどころじゃないや！　あ、あれはなんだろう～？」
「はぅわぁっ！！　駄目ですぅ～！　こんな可愛い男の子と一緒って、まるでデートですぅ！」
　牡丹、遂にオーバーヒート！
　戌井のわんこ的愛玩オーラにメロメロだ！
「先輩、大丈夫ですか！？」
　フラフラの牡丹を気遣い、夕日が沈む海を眺めながら階段に座らせて小休止する戌井。
「先輩が元気出るように僕、サンドイッチ作ってきたんだ！　中途半端な時間だけど、飲み物もあるから一緒に食べよ♪」
　無邪気に微笑みながらサンドイッチを手渡す戌井に、牡丹は自然と涙が零れる。
「……ありがとう、戌井君。優しいんですねぇ……」
「え、先輩？　そんな、泣くほど喜ぶことじゃないですって～！」
　戌井は照れと戸惑いでオタオタ慌てふためく。
「僕、今日、先輩と一緒にいられて楽しかったです」
　夕焼けに照らされ、顔の赤さがかき消されている戌井。
「……頑張ろうね、先輩。僕たちがみんなを守らなくちゃ」
　一瞬、あどけなさが残る彼の両目にキラリと光るものが見えた。
　牡丹はそれを見た瞬間、依存心とは違う別のナニカが胸からこみ上げてくるのを感じる。
「……はいですぅ。戌井くんとなら、私、頑張れますぅ」
　涙を拭い、にこりと添木は微笑む。
　口に運んだサンドイッチの味は、真心の味だった。