怪人セブンの断罪｜リアクション

怪人セブンの断罪

【金曜日：放課後　ののこ　スナック】

　桜井ラッセルは送られてくるメルマガを一読すると、野々ののこのもとへ戻っていった。
「のの、待たせて悪かった」
「大丈夫だよ、ラッセル君！」
　にっこり微笑むののこ。今日もアホ毛が風に揺らぐ。
「買い食いなんて初めてだよーっ！　誘ってくれてありがとうっ！」
「いいのいいのー。俺たちもののこともっと仲良くなりたいからさ♪」
　ののこのクラスメイト、八城昌也がそう言って微笑み返した。
　彼も噂を聞き付け、友人を守るために立ち上がった。
　実に男らしい動機なのだが、彼がすぐに行動出来なかったのには理由がある。
「なんか悪いねー？　便乗する形で付いてきちゃってさー？」
「ううんっ！　昌也君も一緒に駄菓子食べよー！」
　ずいっ、とののこに寄られると八城は思わず一歩引いてしまう。
「お、おう！」
（ち、近い！　ラッセルくんがいる手前だから堪えられるけど！）
　彼は女性と二人きりになるのが苦手という特殊な女性恐怖症なのだ。
　故に中々今回、ののこへ接近出来ずにいた。
　今は桜井がいるので、ののこが傍にいても問題ない。
　だが、不意を打たれて接近されるとドキドキしてしまう（トラウマ的な意味で）！
（で、でも！　俺の友達に手を出そうとする怪人セブンを許せねぇ！　いい度胸じゃん、ソイツ。絶対守ってやるからな、ののこ！）
　八城は女性にビビりながらも熱い思いを胸に灯し続ける。
「おーい、ののこー。こっちだこっち！」
　橘敦志が駄菓子屋ねこやで手を振る。
　その傍らには獅子尾優華が剣呑な雰囲気を纏っていた。
「あ、あのさ。いくら警戒したほうがいいからって、ピリピリしすぎじゃないかな？」
　新井米太郎がオドオドと獅子尾へ進言。
「ののこの前だし、もっと自然に、振舞ったほうが……」
「ねえ、あなた」
「は、はいぃ！？」
　獅子尾に声を掛けられて飛び上がる米太郎。
「……意外ともっともなこと言うのね。そうさせてもらうわ」
　鷹のような鋭い目を止め、ふんわりとした年相応の女の子の顔へ戻る獅子尾だった。
「実は私、駄菓子屋初体験なの！　何から食べてみようかしらっ？」
「し、獅子尾さーん？」
　米太郎が呼んでも全く聞かず、店内ではしゃぐ獅子尾、15ちゃい。
「これだけ買っても100円なんてすごーい！」
　瞳の中に天の川が見えるほどキラッキラだ……！
「優華ちゃん、楽しそうだねっ！」
　ののこもミニカツをかじりながらご満悦。
　と、ここで桜井と橘がアイコンタクト。いよいよ本題に入る。
「なぁ、ののー。学校楽しいかー？」
「うんっ！　すっごく楽しいよ！」
　桜井の質問に両手を挙げて喜んだ。
「じゃあ、ののこ。勉強の方はどうだ？」
「えぇ～とぉ、楽しい、よ……？　うん、眠くなったりするけど、先生が“やさしく”起こしてくれるし……」
　あからさまにののこの目が泳いでいた。
　ニヤリと口角を釣り上げる橘。
　予想通りのリアクションだった。
「なぁ、ののこ。俺たちと今度の日曜日、図書館で勉強会しようぜ。定期テストも近いし、みんなでこの試練を乗り越えるんだ！」
　出来るだけ自信たっぷりに言い聞かせてみた。
　すると、ののこの顔色がぱぁっと華やいだ。
「橘先輩たちが教えてくれるの？　やったぁ！　……あ、でも、日曜日の15時に約束があるの。別の友達と海浜公園で待ち合わせなんだっ」
「あれ～？　先約があったんだ？　ののこは人気者だなぁ？」
　八城が冷やかし気味に囃し立てると、ののこの顔が赤く染まっていく。
「やめなさいよ。ののこが困ってるじゃない」
　風紀委員の凛々しい顔付きで八城を牽制する獅子尾。
　だが、その両手には大量の駄菓子がしっかり握られている。
「残念、シリアスになりきれなかった！」
「あなたに言われたくないわ、あらこめレッドさん」
「……えっ？」
　米太郎、思わず微妙な表情。
　だが彼の入学後の１ヶ月間を振り返ってみれば、彼の残念な部分も納得出来たり。
「え、えっと、ののこ？　差し出がましいようだけど、僕たちもその午後の用事に付き添っていいかな？」
「うん、いいよ～」
「って、図々しいよねー、ってあっさり承諾！？　マジで！？」
　米太郎、思わず食べてたラムネ菓子が喉に詰まって咳き込んだ。
「新井、大丈夫か……？　のの、そういや日曜日は誰と会うんだ？」
　桜井が尋ねると、満面の笑みで答えてくれた。
「１年１組の草薙龍八君だよ！　私とデートしたいだって！　恥ずかしいから大勢で来てね、だって！」
　ののこから寝子高のテロリストの名が出た瞬間、護衛班の背筋に悪寒が走った。

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