＜三羽烏の襲撃１＞またたび市動物園が火事です｜リアクション

＜三羽烏の襲撃１＞またたび市動物園が火事です

●終わる世界（３）●

【テオの時空ゲート】

「来た！　ゾウ班が来た、帰ってきたぞ！」

　先頭に立つ１羽のツバメと、同じ動物園の仲間を背に乗せ誇らしげな鳥の集団。そして２匹のゾウと、その親子を連れたゾウ班２人の姿を発見したゲートの面々は、ドッと喜びに湧いた。
　もはや津波に匹敵する勢いで背後から押し寄せる、蝶の大群に追われるように滑り込んできた龍目豪と千鳥雅人の２人を皆で抱き止め、そしてワーシャとウーシャ親子も素早く保護。
　その様子を見届けたテオが、慌ただしく宣言した。
『よし、よくやった。撤収だ！　てめえら早くゲートに飛び込め。
　避難完了後、直ちに時空ゲートを閉じて、この世界を放棄する！』
　その声に、仲間達の帰還を最後まで待っていた恵御納夏朝、志波武道、日月透、旅鴉月詠、楢木春彦ら、そして最後までこの場を守っていた八神修と椿美咲紀も、いっせいに時空ゲートの門へと飛び込んだ。
「あれ？　刀くんは？　誰か、刀くんを見なかった？」　
　そんな中、ゲートの前で桜庭円は、御剣刀の姿を探し求めていた。そう言えば、結構前から姿が見えない。いつから居ないんだろう？
（えっと……クローネの羽根が刺さって、刀くんのろっこんが暴走してから？）
『おい、何やってる。早くしろ、お前も急げ！』
　最後に残った円の足許に、テオがタッと駆け寄る。そのテオを、ものすごく変な顔で円が見返す。何かを言いかけて口ごもる。ようやく訊ねる。
「刀くんがね、どこにも居ないんだ……。
　あれれ？　テオなら行方を、知ってるよね？」
『あいつは、もういない』
　テオの回答は、即座に返ってきた。テオも知っていたのだ。御剣がまだ帰還していないことを。
「もう、いない？　何それ。いないって何さ？」
『お前も、あいつのろっこんは知ってるだろ。自分の肉体と精神を加速させる能力。
　お前が瞬き１つする間に、あいつ自身は数秒もの時間を体験する。
　言ってみれば、お前らとは別の時間を生きる。そのろっこんが、今回暴走させられた』
「別の時間を、生きる……」
　御剣も昔、そんなことを言っていたことがあったかもしれない。世界を置いてけぼりにする感覚、とか。独りぼっちの世界、とか。
『考えてみろ。暴走でその時間が引き延ばされて、もし数秒が数十年になったら？
　数百年、数千年になったら？　お前が瞬きする間に、あいつはもう死んでいる。
　いないってのは、つまりそういうことさ』
「な……」
　感情の奔流に一瞬で押し流されそうになる自分の思考を、円は必死に繋ぎ止める。この話は何かがおかしいと思う。何かがヘンだ。
「そ、それって逆に言えば、刀くんの方にはいっぱい時間があったってことだよね？
　数日でも数十年でも！　だったらその間に、自分の能力の暴走を止めるとか、
　何か出来たはずだよ！　刀くんなら絶対何か、手を打ったはずだよ！」
『だからさ、つまりそういうことだろ』
　テオが小さく肩をすくめた。
『ろっこんの暴走から、瞬き１つの時間が経っても、あいつは姿を現さなかった。
　あいつは、お前たちの生きる時間に戻ってこなかった』

　　　　　　　　　　　　　　・・・　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『あいつが今、ここに居ない。それが、あいつが何も出来なかった何よりの証拠だ』

「あ…………え？」
　それに、とテオが目の前の世界に視線を移して、続ける。蝶の津波がぶつかり合って砕け、渦を巻き、嵐の海のように揺れているその世界は、もはや元の動物園の原型を留めていなかった。
『それにもうこの世界には、お前以外のもれいびの反応は、どこにも無い。
　分かるな？　あいつはもう、死んだんだ』
「そんなの、うそだ！」
『いい加減にしろ、帰るぞ。さっさとゲートに戻れ』
「言ったじゃないか。全員脱出できるまで待つ、って。まだ全員じゃないよ。
　刀くんはいるんだよ。ボクらには認識できないだけで、まだこの世界のどこかに居るんだよ。
　待ってよテオ。ねえ、待ってってば！　うわああああ！　うわああああ！」

　らっかみテオ、時空ゲートを閉鎖、蝶化した世界を破棄。──基本世界への帰還者、３９名。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　未帰還者、１名。