アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

“あらぁ、あの子達、随分必死ねぇ……そうこなくっちゃ。いいわ、もう少し可愛がってあげましょ。
　あんた達、こけしじゃなくて、こけしを持ってる奴を狙いなさいな”
　クローネの命令が飛び、カラス達は方針を変えた。

　風を切り速度を上げるコースター、追うカラス、食らいつく飛行チームのメンバー。
　コースター乗車組も負けてはいない。ある者はカウンターで、こけしを縫いぐるみに触れさせ、ある者はカラスを迎撃する。
　けれどそれらの喧騒も、全て風圧で消し飛んでいく。

「なあ、誰か教えてくれ。アーチャーはどうなった！？　無事なのか？」
　足で探りながらソロソロと前を目指し、懸念を口にする刀の瞳は、相変わらず空しか映さない。
　時々、華麗な戦いを見せるトンビがカラスを掠めるものの、やはり視界を埋め尽くす多くは、カラスだ。
「同じだ……」
　ろっこんで＜加速＞した時にだけ、感じてきた孤独を、刀はここでも噛み締める。
　周りには誰もいない。世界を置いて、自分だけが突き抜けていく感覚は、いつだって彼に恐怖を刻み込む。

「落ち着け、頭を下げろ」
　誰かの声がして。ぐい、と頭を前に倒された。
　今度は前しか見えない、流線型のボディをなぞって、風が流れていく。
　けれど刀の視界には、コースターで奮闘する、皆の姿が確かに良く見えた。
　刀に声を掛けた赤毛のクマ、奇しくも刀と同種のろっこんを持つ、響也の背中も。
「行くんだろう、前に？　しっかりしろ」

　一寸だけ気遣うように振り返った響也に、こくりと頷き返せば、こけしの海とブリジットの手首を抱えた腕に、ほのかな暖かさを感じた。そんな気がして。

　歯を食いしばり、前方に見える先頭車両に向けて、刀は腕を伸ばした。
　時に生じる振動で滑る手を、カラスを重力で払っていた米太郎が掴む。こけしの翠子を抱えた彼もまた、カラスの標的であったが、藤寿が再び小淋こけしライダーを駆って、群がるカラスを蹴散らした。

　――皆さん、頑張って。一刻も早く元の世界に戻りましょう！

　こけしとして、献身する小淋は言葉で皆の心を震わせる事は出来ないけれど。
　その存在が、皆を勇気付ける。

　マリナこけしを持った庚にも、方向転換したカラスが迫る。
　かなえの背に乗った、ねむるはマリナを狙うカラスに狙いを絞って、その手を伸ばした。
「ゆっくりお休み……In to the Sleep...」

　コースターが乗降場を通過した。
　制御室の智火がタイミングを計って、クロウディアの手を借り、コースターの緊急停止ボタンに力を込めた。

　そして。

　――さっきアーチャーと手が離れた場所に、コースターが到着する前に止める！！

　近づいてくるサンマさん人形に気付いて、カラスを炎弾で弾き飛ばして居たひふみは、思わず笑みを浮かべた。
　細い指先を、そちらに突きつけて大きく声を通らせる。

「ののこ！　大きなサンマさんが、こっちに向かって来てるわよ！！」

　ひふみの声を受け、刀は立ち上がって仁王立ちした。
「ののこ～、俺様が会いに来てやったぜ、居るなら返事しな！！」

「きゃ～っ、サンマさん、どこどこー！？　会いたい――！！」
　能天気な声は、刀が風圧でひっくり返らないよう、背中を支えたマウルにも届いた。

　【神無月ひふみ　＆　御剣刀　　本物のののこを特定！！】