●我々の業界でも拷問です●


　弘明寺 能美子……ＡＣ０【Ｙシャツ】
　桜庭 円……ＡＣ０【ワイシャツ】


「きゃあっ！？」
「うわわっ！！」
　弘明寺 能美子と、桜庭 円の着ていたワイシャツが消滅した。
「い、一生裸で……しかもこのポーズで過ごせですって！？」
　もはや首を回すことすらできなくなり、友人の円と見つめ合ったまま、能美子がドン底の絶望に打ちひしがれる。
「そんなの無理に決まってるじゃない、ねえ桜庭さん。
　こんなトロピカルな場所、紫外線が肌を直撃しっぱなしじゃない！」
「やっぱり、そこなの！？」
　彼女たちにとっては、シャツの長袖を破ってしまっていたことが災いした。ソデが肌をカバーしてさえいれば、忍足 春のろっこんの影響を受けずに、腕を動かすことも可能だった。這い進んで移動することも出来たのだが、しかしもはやそれも叶わない。
「見えてるのに、手が届かないなんて……！
　ねえネズミさん、元の世界に戻る方法を教えてよ。
　この世界は、一度っきり……脱がしてしまったら、次の袋とじはもう無いんだよ！」
　と、ろっこんのことを教えてやる円に、オッサンが、
「な、ナンダッテーー！？　俺っちが皆サンを、
　こんな袋とじの世界に連れてきちゃったンすかー！」
　呑み込み早いな。しかし、
「えっ、戻す方法が解らないって？
　クルミ潰して意識飛ばすぞ！？
　くっ。やっぱりネズミさんに気絶してもらうしか、方法は無いのか……！」


　八神 修……ＡＣ０【パンツ】
　ネズミのオッサン……ＡＣ０【白ブリーフ】


「こんなくだらない最期を迎えるとは……！」
　同様に全裸となってしまい、ぎりぎりと歯噛みしているのは八神 修だ。
「足さえ動けば、あの男の股間を潰して、気絶させてやるのに！」
　と思わず激昂しそうになるが、如何なる時も彼は冷静。
（いや、落ち着け八神。忍足のろっこんの影響を受けているのは、あの男も同じ……
　さっき御剣の攻撃を跳ね返したのと同様、ダメージを与えることは出来ないだろう）
　そう、今問題なのは、春の硬化ろっこんの方なのだ。
「そちらの暴走さえ、解除できれば……」
　必死に思考を巡らせる八神……しかしいったい、どうすればいい？


　恵御納 夏朝……ＡＣ２【眼帯・ワイシャツ／ＡＡブラジャー・パンツ】


　その一方で。大天使 天吏から衣類を没収していた恵御納 夏朝には、まだ２着の下着が残されていた。しかし、小さな胸とお尻を覆う、そのわずかな布だけでは、少しモゾモゾできるぐらいが、せいぜい。ハダカになっているほとんどの部分が動かせず、あまりの羞恥に肌を染める夏朝だ。
（恥ずかしいけど、我慢……で、できないよこれはっ！）
　目尻に涙を浮かべて、そこで思い出すのは、テオの言葉。

　──今のてめえらの力じゃ、クローネには敵わねぇ……。

「そうなの、テオ君？　今の僕達の力じゃ、
　どうやっても……あのクローネには勝てないの？」
　しかしその必死の呼びかけに、答える猫の声は無かった。夏朝の流した涙が、ぽたりと砂に吸われ──照りつける陽射しに、たちまち蒸発する。


　塔ヶ崎 璃亜……ＡＣ０【コンビニ制服（スカート）】


　最後のスカートを失い、塔ヶ崎 璃亜もぽろぽろと泣く。あの寝ぐせ頭の少年にシャツを貸してもらい、ここまで何とか、生き延びてきた璃亜だったが、どうやら彼女もここまでのようだ。
　裸ネクタイの変態……いや、そのネクタイすら消えてしまった少年の、いるであろう方向に向かって、
「すみません、刀さん……いっしょに付いてきたのに、
　私ちっとも役立たずで。本当に、ごめんなさい……」


　御剣 刀……ＡＣ０【ネクタイ】


　その御剣 刀は、圧倒的な孤独に、押し潰されようとしていた。
（またか……またこの世界か！）
　倒れて固まった、御剣の視界に映るのは、押し寄せる波と水平線ばかり。仲間たちの声は背後でするが、その姿を振り向いて見ることもできない。
　誰もいない。
　世界に自分１人きりだという、あの感覚が甦る。
　ろっこんで【加速】された精神が見せる、いつもの、彼だけの世界。
　先ほど、クローネの羽根を躱した時もまた、同様だった。
　こんな独りぼっちの世界から１歩を抜け出し、また皆の所に帰って来たハズだったのに。
「どうやっても俺は、ここに戻ってくると言うのか……！」
　砂に半身を埋めて、ずぶずぶと孤独に沈んでいく御剣……


　──いいえ御剣くん。あなたは独りにならないわ。


　ふと、そんな声が聴こえたような気がして、少年はハッと目を見開いた。
（そうだ、浸るな！　思い出せ！　忘れたのか、あの夜のことを──）
　そう、あの時。彼を励まし、導いて、背中を支えてくれた友人がいた。仲間たちがいた。
（確かに加速した時、俺は１人だ。でもそれは、ここが俺の戦場だから。
　ここが俺の、戦うべき場所だから。
　他の人達も同じ目的の為に、それぞれ自分だけの戦場で戦っている。
　だから怖がる必要はない──気づかないだけで皆一緒に戦っているんだ！）
「そうとも、だからあがけ！　最後まで抵抗しろ！
　俺はこの場所で、仲間を信じて、戦うんだ！」

　無様にもがく御剣の──その手に、ふと触れる物があった。



ＡＣ１【コート（NEW!!）】


「なっ……これは！？」
　これはそう、この世界に着いて早々、忍足春が脱ぎ捨ててしまった、あのコートだ！　この袋とじの世界で消えていくのは、着衣のみ。春が自らの意志で脱ぎ捨てたコートは、誰にも回収されないまま、まだこの砂浜に放置されていたのである。
「こんな、偶然が……」
　偶然だ。だが、ただの偶然ではない。
　これは塔ヶ崎 璃亜のろっこん、【フォーチュンスプリンクル】が呼び寄せた幸運──。弘明寺 能美子の、桜庭 円の、八神 修の、そして璃亜自身が全裸になるという数々の「不幸」を呼び水とし……御剣にコートを発見させる「幸運」を、ここでもたらしたのである。
　ＡＣ＋１。コートを着込んだ御剣の、腰から上が動くようになった！
「露出した肌を再び覆えば……硬化ろっこんの影響を弱めることができるのか！」
「そうとも、御剣──」
　そこに八神が全力で声をとばす、
「クローネはこう言っていた、脱げば脱ぐほど、硬くなる能力だと。
　ならば逆もまた然り──服で覆われた身体は、能力を発揮することが出来ない。
　御剣、忍足に服を着せるんだ！　いや、肌の露出を覆えれば、何でもいい。
　それで本体の能力の発動を弱めることが出来る……この暴走の影響も、止められるかもしれん！」
「分かった！」
　御剣の足は動かない、しかしコートを翻して砂浜を転がり、素早く彼が手にしたのは超高級な羽毛布団。何でこんな所に布団が、とお思いかもしれないが、思い出していただこう。勿論これは御剣がここまで大事に運んできた、あの猫島 寝太郎の布団である！
「猫島、布団なので返事は出来んだろうが……
　頼む！　俺たちのこの窮地を救ってくれ！」
　デヤッと丸めて投げたその布団が、倒れていた春の全裸像に、スポッと太巻きのように突き刺さり──


　ろっこん【毛皮を脱いだヴィーナス】の影響が弱まった！
「「やった！　動けるようになったよ！！」」


　しかし動けるようになったのは、ネズミのオッサンとて同様。「あわわ！」と混乱して砂浜を逃げ出すオッサン、だがその前方に全身のバネで跳び起きた、小さな少女の姿を認めて、御剣が叫ぶ。
「たのむ……恵御納、そいつを仕留めてくれ！」


　恵御納 夏朝……ＡＣ１【ＡＡブラジャー／パンツ】


「うわあああああっ！！」
　素早くブラジャーを外し、オッサンの首にすれ違いざま、その下着を巻き付ける夏朝。全身の体重をそのブラに掛け、ぶら下がる形でオッサンの首を絞める……！
「ぐえっっ！？」
（絶対に極める、これでおじさんを気絶させるんだ！
　だから……だからまだ、消えないで！
　このブラだけは……お願いだよっ！）


　そして、夏朝のブラとパンツが消失した。