味覚の秋・米フェスティバル！｜リアクション

味覚の秋・米フェスティバル！

「無料でいくらでも美味いメシが食えるなんて、夢のようだぜ」
　山田勘三郎は持ち前の旺盛な食欲を遺憾なく発揮させようと、ごま塩持参で会場に訪れた。
　これさえありゃあ、何杯だって食えるぜ！　と、いき込んで来たものの、肉の焼ける堪らない匂いを前に、決意が揺らいでいた。
　新米は文句なく美味しいが、目の前で肉を頬張られては、平常心を保つのは修行中のお坊さんだって難しい。
「……やっぱ、がっつり肉も食いたいなぁ。けど、今月分の金は使い果たしてるし……」

　そこへ
「無料引換券が2枚か、さて……何を食べようかな？」
　中学生くらいの少年が、勘三郎を追い越していった。黒縁眼鏡が堅い印象を与える、津島直治だ。
「無料券！？　ちょっと待ってくれ！」
　勘三郎は早速、直治を呼び止める。
　健康的な浅黒い肌をした年上の少年に、突然呼び止められ思わず緊張する直治。
「な、なんです？」
「いま無料券がどうとか言ってたけど、どっかで貰えたりすんのか？」
　前のめりに尋ねる勘三郎に、直治は眼鏡のフレームを持ち上げる。
「そんな事か。残念だが、これは小中学生の子供にだけ配られるものだ」
「う、そうだったのか、俺……ダメじゃん……」
　肩を落とす勘三郎に驚きながらも、直治はそそくさその場を去った。

　親戚の叔父と旧市街で暮らす、直治。
　毎度、料理を作ってくれる叔父には、感謝している。味も悪くない。
　だが男所帯の悲しさ。
　栄養は偏り勝ちで、健康面では今一歩だった。
「せっかくだから、なるべくバランスの取れた食事をしたいな。
　栄養を摂るためには主食、主菜、副菜……だっけ……？」
　直治は思案する。
「今日の場合、主食はお米ってことになるから、あとは主菜と副菜か……」
　旧市街からキャットロードに入った直治が、一番に入るのは肉ブース。
　出店のあちこちから、肉やガーリックの芳しい香りが漂ってくる。
　腹ペコ成長期の少年には、抗いがたい誘惑だった。
「……唐揚げ、美味しそうだな……」

　唐揚げの出店の前で考える事、しばし。
「お肉は唐揚げが美味しいから、買っちゃおうかなあ」
　ふっくらした頬が可愛らしい、おさげ髪の少女が、カラッと揚がった唐揚げを購入した。
「お姉ちゃん、可愛いからオマケしとくよ」
「ふへ？　わ、ごそっと……ありがとう！」
　二重に嬉しいハプニングに、気恥ずかしそうに振り返った少女は、凝視する直治に気付いて焦る。
「あ、ごめんねえ！　先に順番待ってた？」
「いえ、まだ考え中で……」
「そっかあ、良かったよう」
　首を振る直治に、少女の友人らしき仔犬のような印象の少年が、興味を示した。
「悩んでるなら、買っちゃいなよ。きっと美味しいよ！　ホラ、注文が入ってから二度揚げしてるよ」
「うんうん、間違いなく美味しいしょ！」
　年上の少年・少女は、ねーと声を揃える。
「澄佳センパイの見てたら、俺も欲しくなっちゃった！　すみませーん、俺も唐揚げ下さい」
　半ば茫然としていた直治だが、やはり誘惑に抗えず、無料券を一枚差し出した。
「唐揚げください」
「あいよ！」
　やがて直治は顔を寄せると、自分のものになった熱々の唐揚げの香りを、心ゆくまで楽しんだ。
　彼は気付いていないが、いつも生真面目な直治には珍しく、少年らしい年相応の笑みが浮かんでいる。
　そんな直治に、二人は同行を申し出た。
「一人じゃ寂しいしょ？」
「俺達、普通に先輩後輩だから気を遣わなくていいよ」
　ポーカーフェイスでも、まだまだ中学生。願ってもない嬉しい誘いに、頬が少し熱くなる。
「えと……いいんですか？」
「うん！　あたしは澪乃澄佳だよう、よろしくねえ」
「俺は、千鳥雅人だよ♪」
「津島直治です……よろしくお願いします」