味覚の秋・米フェスティバル！｜リアクション

味覚の秋・米フェスティバル！

「やあ、ベトナム料理とは珍しいねえ。スパイシーで、いい香りだ」
　シダ美穂戸が切り盛りするベトナム料理のお店チュックマイマンを、首から古ぼけたカメラを吊り下げた、ピーター・ビアズリーが通りがかる。
　寝癖頭もそのままに飄々とやって来た彼は、顎を摩りながら品定めをしている。
「生春巻き　シダ　つくった　うまいぞ　かえ！」
「本場の味か、いいねえ。
　いやあ、うちのかみさんが好きでね。初めての時うっかり唐辛子の種を大量に」
「タネ　からい　火　ふくぞ　ふく」
「そうなんだ、あんまり辛くて冷や汗が出たよ。でもそれが美味しくてね」
　シダと談笑しながら、ピーターはフォーと生春巻きを注文する。

　そこへピーターと親交のある、椎名あさひがやって来た。
「ピーターおじさん、こんにちはー！　やっぱり来てたんだねぇ」
「おや、あさひ君。奇遇だねえ……君、生春巻き一つ追加してもらえるかい？」
　シダはＯＫの代わりに、一つウィンクを見せた。
「ちびっこ　香菜　へいきか？　ホンサオダウ　シダ　サニーレタス　シソ　持って来た
　すきなの　つくってやる　サービス」
「えっと、香菜？」
　戸惑うあさひに、ピーターが助け舟を出す。
「私はコリアンダーがいいけど、あさひ君は子供だからサニーレタスでお願いするよ」
「ヴァン　まかせろ」
　手際よく、シダは調理する。
「これつける　ニョクマム　ちびっこ　ムリか？　ならためせ　チリソース」
　乱暴な口調とは裏腹に、シダは人好きのする明るい笑顔で、あさひを覗き込む。
「ありがとう、大丈夫だよぉ。生はるまき具がすけて、きれいでおいしそうだねぇ」
　席に着いて写真を撮るあさひを尻目に、早速フォーを口にしたピーターが、激しく咳き込んだ。
「チョーイオーイ！　水　のむか」
「おじさん、大丈夫？」
「げほっ、大丈夫……これがクセになるんだよなあ」
　咳き込みながらも、満更でも無さそうなピーター。すっかり味の虜となったようだ。
「シダの店　ライスペーパー　乾燥フォー　おいてる　気に入ったら　買いくる　こい」
　チュックマイマンの場所をプリントした地図を渡して、シダは宣伝に余念がない。
　ベトナム料理を楽しんでから、あさひはシダにも撮影許可を求めた。
　快く求めに応じ、シダが前に出る。
「せっかくだから、あさひ君も一緒に映ったらどうだい？　カメラ貸してごらん、私が撮ってあげるよ」
「いいの？」
　シダはすでにそのつもりで、あさひの顔の高さに屈み込んで、おいでおいでしている。
　ピーターも穏やかに笑って、手を伸ばして促す。
「……ありがとう、じゃあ……よろしくねぇ、お姉さん」
「シダ　よべ　ちびっこ」
「あさひだよぉ、シダお姉さん」
　シダに寄り添い、あさひはカメラに向かって、はにかんだ。
　シダはあさひの肩に腕を回すと、極上の笑顔を向ける。

「……よし、我ながらうまく撮れたと思うよ」
「ありがとう、おじさん！　じゃあまたね、シダお姉さん！！」
「あさひ　またな　Chuc may man☆」
　手を振るあさひに、シダも元気に手を振り返した。

「ピーターおじさん。
　おいしいお米なら、おにぎりにしたらもっとおいしいんじゃないかなと思って、あさひおにぎり作ったんだ！　みんなといっしょに食べたいなぁ」
「それは名案だねえ、誰か居ないかな？」
　ラップに包んだ白黒ぶち猫を掲げて見せる少女に、ピーターは目を細めると、あさひが人混みでも歩きやすいように、ゆっくり先を歩き始めた。

「美穂戸、やってるな」
「シンチャオ　かたな　シダ　まちわびた」
　作ったおにぎりを小脇に抱えた、御剣刀が立ち寄った。
「あれ、米を使った料理と聞いたが？」
「コン　ライスペーパー　そのままちがう　千葉の米で　シダ　つくった」
「マジで！？　すっげえ……」
　刀は、しきりにシダの健闘を褒め称える。
「心して食べないと、失礼にあたるな」
「具　えらべるぞ　フォーもあるぞ　あったまる　たべていけ」
「勿論だ、頂こう！」

「知ってるか？　ベトナム　お米　４毛作できる　シダも　お米すき　ンゴーン」
「ベトナムも米が主食なんだな」
　こくこく頷くシダに、フォーをすすりながら、これまで以上に親近感が沸いた刀だった。

「うむ、ンゴーンだ！」