学校サボってどこいこう｜リアクション

学校サボってどこいこう

【一限目】

　どこからともなく始業の鐘の音が聴こえてくる。
「いやー、まさか校門の真ん前で堂々とサボりに誘われるとは。御剣君ってば、大胆だよねぇ」
　猫島寝太郎は隣を歩く御剣刀に呆れと憧れとがないまぜになったような口調で言った。
「なんか後ろめたさとか全然感じなくてついＯＫしちゃったけど、補導とかされたらやばくない？」
「まあそのときのことはそのときに考えればいいじゃないか」
「あはは。まあそうなんだけどねぇ」
　やはり平然と言ってのける刀に、寝太郎は苦笑するしかなかった。
「で、どこに行くんだっけ？」
「ああ。まず落神神社の境内を見てまわって、それから九夜山の三夜湖に行こうと思う」
「落神神社かぁ。じゃあ自分はお祈りでもしていこうかなぁ」
　そう言って、寝太郎はポケットからニボシを一掴み取り出した。
「なあ、猫島。そのニボシ、もしかしていつもポケットに入れてるのか？」
　ポケットティッシュ感覚でニボシを取り出す寝太郎に、今度は刀が苦笑をする番だった。

　御巫時子は母親を無事に自宅へ送り届けると、再び学校への道を急いでいた。
「おや、時子ちゃん。遅刻とは珍しいねぇ」
　と、そこで彼女は知人の金物屋の主人に声をかけられた。
「ええ、ちょっと寝坊を――あら？」
　時子はそこで主人の顔が赤いことに気がついた。
「あの、ご主人。お顔が赤いようですけど……」
「うーん？　ああ、そういや、今日は朝から妙に頭が――」
　と、まさにその瞬間、主人がふらりと身体をふらつかせた。
「だ、大丈夫ですかっ？」
　時子はとっさに彼のそばに寄って、その身体を支える。
「ご主人。今日はお店はお休みにされたほうが」
「いや。こんなの大したことは……」
「ですが――」
　時子の説得に、最初は不服そうだった主人も、やがて観念したように「わかったよ」と頷いた。
「よかったです。あ、お薬とかありますか？」
「そういや、ちょうど切らしてたっけな」
　主人が苦りきった表情で言った。
「わかりました。私が買ってきますからお家の中で温かくして待っていてください」
　時子がそう言うと、主人は目を丸くした。
「いや、そこまでしてもらうわけには。それより早く学校に――」
「平気です。もう一時間目は始まってしまっていますから。あと少しくらい遅くなっても一緒です」
　時子が笑うと、主人は感極まったように涙ぐむ。
「そうかぁ。じゃあ申し訳ないけど頼むよ」
「はい」
　にこり笑って、時子はすぐそばの薬局へと急ぐのだった。

　一限目の終了の鐘とほぼ時を同じくして。
「……うーん？」
　この日、彼女にしては珍しく、朝鳥さゆるは自宅のベッドの上で目を覚ました。
　時計を見る。
「……午前……９時半……」
　呻くように時間を読み上げた。
（……今更、行く気なんてしないわね）
　さゆるは早々に学校に行くという選択肢を放棄した。
　しばらくボーッとしてみる。
　そうしているうちに、だんだんと目も覚めてきて、退屈になってくる。
「街でもぶらぶらしてくるか」
　ぽつりと呟くとさゆるは大胆に服を脱ぎ捨てて、朝の身支度を整え始める。
　ほどなくして、私服姿で自宅の外に姿を見せたさゆるはとても学校をサボって街を歩いている高校生には見えないほどの大人びたオーラをまとっていた。
「それじゃ行きましょうか」
　誰にでもなく呟いて、さゆるは一人シーサイドタウンへ向かって、ゆっくりと歩き始めるのであった。