学校サボってどこいこう｜リアクション

学校サボってどこいこう

【四限目（２）】

　風邪で学校を休んでいたキリエ・オーラティオは鳴りやまないノックの音に浅い眠りから目を覚ました。
（……こんなときに、いったいどこのどいつですか……？）
　キリエがよろよろと立ち上がって扉を開ける。
「やっほー、キリエーん。突撃隣の病床事情だよん」
「……っ、スミレっ……！？」
　友人――若宮菫の突然の襲撃に、キリエは赤い瞳を大きく見開いた。
「お、お前、学校はどうしやがったので……げほっ、げほっ……」
「……って、おうおう。思ったより病状悪そうだねぇ」
　咳き込むキリエの様子を見ながら、菫は許可も取らずに部屋の奥まで上がり込んでくる。
「キリエはそうでなくたってちっこいんだから、とりま安静にしときなはれや」
　菫はあっけらかんとした表情でそんなことを言った。
　キリエは「はぁっ……」と深い溜め息を吐いた。
　聞けば、菫は学校でキリエが病欠すると聞いて、わざわざここまでやってきたのだとか。
「……お前はいったい何を考えてやがるのです？　学校サボって、人の部屋に上がり込んで、それを看病と云うのです？」
　キリエはワンピースのパジャマ姿のままでベッドに腰掛け、呆れたように呟いた。
「……悪いことは言わねーですから伝染る前にとっと帰りやがれなので……げほっ……げほっ……」
「ほらほらキリエん。寝てなきゃダメだってぇ。これから僕が自慢の料理スキルを披露するんだからさぁ」
　菫が笑顔でキリエの細い肩を掴んでベッドに押さえつけてくる。
「……料理、なのです？」
　キリエは赤い目を瞬かせた。
「……まさか、あの怪しげなアルコールランプだのなんだのを使った奇天烈料理じゃないだろーな……です……げほっ……げほっ……」
　咳き込みながら、キリエが訊いた。
「あっはっはっ。いやいや大丈夫だよキリエん」
　菫は訝しげなキリエの視線を快活に笑って受け流す。
「さすがにいつもみたいにインスタント麺ぶちこんだビーカーをアルコールランプで熱したりはしないからねぇ」
　にへら～と笑って菫が立ち上がる。
（不安なのです……）
　キリエは内心で呟くも、菫を呼び止める体力は残されていない。
　自分の無力さを呪いながら、キリエはもう一度浅い眠りに落ちた。