悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

「無事か、あんた！」
「ああ、かすり傷だ、案ずることはない」
　黒滝竜也は、敵陣の真ん中でまさかりを振りまわりつつも、仲間を気遣っていた。さっき行軍中に言葉を交わした少年兵とは、絆らしきものが生まれている。
　近接戦では、相撲で鍛えた組み打ちの技術が役立った。だが、目の前の雑兵を倒しても、大将を討ち取らなければ意味はない。混乱に陥った今川軍本陣で、織田方は優位に戦えるはずなのに、大将の義元に大いに手こずっているようだ。
「義元ってあんなに強かったか？けど！」
　相手が強敵ならば、こっちが何度倒れても立ち上がって立ち向かうしかない。竜也のろっこんは心身の回復だ。これを活用して、相手が弱るまで戦うのだ。

「痛た……」
　誰かが負傷したのか。竜也は声の方を見る。
「大将、ご無事で？」
「大丈夫、ちょっとした打ち身よ」
「早く手当を！さ、鎧脱いでくだせえ」
「……下心はないでしょうね」
　維剣姫乃と仲間たちだった。
「大丈夫だ、心配ない」
　竜也は彼らの元に駆け寄る。同じ年頃の少女が混じっていると分かって一瞬どきりとしたが、今は非常事態だ。
「待ってろ、今痛みと疲れを回復する」
　竜也は柏手を打ち、四股を踏んだ。ろっこん「力士の威風」は、戦いに疲れが見え始めてきた周囲の心身を少し、だが確実に元気にした。

「来るか、小童」
　敵軍を突破し、ついに今川義元と相対した御剣刀は、まず相手の中心を見据えた。そこから視界を広げるようにして全身を見渡す。武将としての鍛錬と妖刀の影響か、相手に隙は見えない。
　義元の視線と構え、肩とつま先の動き、そして間合いと重心の移動を見極め、相手の動きを読み取る。そして、その動きに対応できるよう常に間合いと構えを調整する。
―――見切った！
　義元の攻撃の出始めより、ひと呼吸はやく下がり、間合いとタイミングを潰した。義元の攻撃の威力は半減する。
「やるな、若造」
　攻撃を正面から受け止めたら力負けするだろう。刀は、義元の一撃を軌道をそらすようにして受け流した。なるべく受け流す姿勢を保ちつつ、隙をうかがう。隙がなければ、相手が大振りする瞬間を狙う。
　待っていた瞬間はまもなく訪れた。義元は右上方向から、袈裟懸けに大振りを繰り出してきたのだ。刀は、下がるところを踏み込み、攻撃を受け流しながら、頭の中で撃鉄を落とすイメージを想起する。その瞬間、ろっこん「加速」は発動した。
　刀の心身は加速する。相対的に遅くなった世界の中を、刀の肉体は駆け抜けた。
　そのまま、義元の死角に潜り込み、大振りによって生じた隙を突く。そして、体重を乗せた斬撃を義元の首に叩き込む―――
「この手が届くまで、世界よ、止まれ！」

―――鋭い金属音が響いた。
　義元の太刀は、刀の一撃を確実に受け止めていた。

―――まさか。
「見事じゃの。今までで一番戦い甲斐があった。しかし」
「加速」が破られるとは―――

「今のわしには全てが見える。わしはここでは倒れない。これは天命じゃ」

　義元の隙はどこにあるのか。それが分からなければ勝機はない―――刀は、とっさに退くという判断をした。