悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

「霊術とかに詳しくなくても、見ただけでヤバそうね、あの刀」
「ああ、持つ者の力を極限まで高めておる。見るだけでも妖刀と分かる代物でござるな」
　敵兵を退けつつ、本陣の中心近くまでやってきた秋風冥と夏神零は、義元との間合いを測っていた。
「どうしよう……腕に相当覚えがあっても、かないそうにない様子よ」
「だが、突破口はどこかにあるはず……。今、義元にはなぜか一瞬の動揺が見えた。彼も化物ではなく、人間ということか。裏を返せば、ただの人間をあそこまで変えてしまった妖刀をなんとかすればいいのではないか？」
「というと―――」
「冥のろっこんで、あの妖刀を切断する。拙者のろっこんは月が出ていないと使えぬから、今妖刀を破壊できるのは冥、お主だけだ」
　零の言葉に、冥は戸惑う。
「あたしに、できるかしら―――」
「冥よ」
　気後れする冥に、零は語りかける。
「今、鳥の声や、小川の水の音、風の音は聞こえるか？」

　兵卒の雄叫びや斬り合いの音がこだまする戦場で、それは奇妙な問いに思える。だが、冥の中で、零の意図することが少しずつ見えてきた。
　死と隣り合わせの極限状態と、そこから見えてくる無の境地。明鏡止水の心の状態―――武道を極める過程において、必要とされること。
　冥は突如として悟った。自分が乗り越えなければならないものを。そして、乗り越えるべき時は今であることを。
　しくじれば自分が死ぬだけではなく、全てが消え去ってしまうという極限状態。そんな中、零はろっこんを使えない状況化で敵を引きつけ、戦ってくれている。
「鳥の声……水の音……風……そういうことね」
　武道において、腕前や力量、技術だけではなく、心も大切であるということを、零は伝えようとしてくれているのだ。普段の鍛錬、師の言葉、全てが冥の中で繋がった。
「拙者は一度、今と同じように過去に飛び、心の迷いによって死の経験をしている―――だが、その恐怖を体験しているからこそ、克服できたものがある」
「―――やってみるわ。実戦は……師匠とやったとき以来かな」
　冥は、一歩を踏み出した。零が背中を押すように言う
「迷わず、敵の妖刀をその舞で狙え」

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