悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

　その時だった。
「全てが終わったね。協力に、感謝する」
　遺骸がいたるところに転がる中、灰色のシャツと眼鏡という、いかにも不釣り合いな出で立ちで現れた少年。―――築地哲だった。
「『左文字』を壊してくれるとは、荒療治だったね。史実ではまだ壊れないのだけれど―――こっそり直しておくよ。歴史が歪むことを考えれば、このくらいの手間なら安いものさ。さて、協力してくれた諸君を集めてきた。まもなく現代に帰れるよ」

「その妖刀、学者としては非常に興味がある。ぜひ現代に戻って持ち帰って研究したいものだ」
「俺も、かけらくらいは持ち帰りたいぜ」
　屑利執と大和無銘が申し出るが、哲は却下する。
「それはダメだよ。この刀は、信長、秀吉、そして家康の所有になるのだから」

「元に戻っちまうのかい？信長公の天下取りは、もう少し見物していたい気がするがね」
　桜崎巴の言葉を聞き、哲は笑った。
「君をこの時代においておくと、天下まで横取りされそうだから戻ってくれるかい」
「ふん、中々よくわかってんじゃないか、あんた」

「あの……私も戻れるんですか？」
不安そうな沼田さんに、哲は答えた。
「大丈夫、責任持って送り返します」

「協力の代価として、君の正体を知りたいね」
　八神修の問いかけに、哲は静かに答える。
「正体は教えられない―――業務上の秘密だからね」

「しかし―――」
　鈴野海斗は誰ともなしに言った。
「人殺してフツウを守るなんて、皮肉だべな。……なんでなんだべな」
　答えるものは誰もいなかった。

「さて、神魂の影響はもう消える―――諸君」
　哲が皆に呼びかけるのとほぼ同じくして、皆は周囲の風景が少しずつ色あせていくような感覚にとらわれた。
「無事に修正された現代に、どうぞお戻りを……」
　その言葉を聞いたのを最後に、全員の意識は少しずつ薄れていった―――

　その後、皆はそれぞれ、無事に現代へと帰り着いた。世界が変わった気配はどこにもなく、一連の出来事はただのリアルな夢であったようにも感じられるのだった。
　しかし、注意深く調べるとちょっとした痕跡は残っているようだ。
　某所で、桶狭間の戦いに武田信玄がいた、という妙な記録が発見された。
　今川焼きの命名者は今川義元である、という記録も見つかった。
　多分、築地哲が「問題なし」と判断して消さなかったのだろう。

　日本史の教科書には、問題なく「織田信長は桶狭間の戦いで今川義元を討ち取った」と書いてある。ひとまず、「フツウ」が死守されたのは、確かなようだった。

〈了〉

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あとがき

担当マスター：三城俊一
ファンレターはマスターページから！

皆様、ご参加いただきましてありがとうございました。

ハード（？）SFものやバトルものは初挑戦ということで、試行錯誤と苦労を重ねることになりましたが、皆様の「桶狭間」はいかがでしたでしょうか？
「歴史を動かす」経験が良き思い出になれば幸いです。

拙いシナリオとなってしまいましたが、反省点はどんどん活かしていきますので、どうぞ今後もよろしくお願いいたします。

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