「……。どこだ、ここは……」
メルヒオール・ハルトマンが目を開けたとき、周囲には見慣れぬ風景が広がっていた。明らかに未開発の山林。起伏が多く見通しの悪い地形。そして、目の前にあるのは木製の柵に囲まれた、巨大な木造の古風な建築物。建物には、何かの花の家紋が入った旗が何本も立っている。
明らかに寝子島の風景ではない。何かまた、異常事態に巻き込まれてしまったのだろうか?
自分のいでたちを確認したメルヒオールは困惑した。いつの間に戦国時代風の甲冑など身に着けたのだろう。幸い、愛用の木刀は無事だが……。
その時だった。
「ここにも、巻き込まれた人がいたようだね」
「―――?」
彼女が振り返った先には、16歳くらいと思しき少年が立っていた。灰色のシャツと眼鏡を身に着けた、平凡な風貌。
「君は誰かね。何か知っているのか」
現代人らしき人間に出会えて、メルヒオールはすぐ平静を取り戻した。
「僕の名前は、築地 哲。状況を説明すると、神魂の暴走の影響で、複数の人間が時空を移動してしまったようなんだ。数時間程度で自然に元には戻れるのだが。今僕たちがいるのは1560年の5月19日。場所は現在の愛知県だ」
「戦国時代に飛ばされた、ということか。厄介なことになったね。まあいい、そのうち元には戻れるんだろう? それまで自分の身を守るくらいなら―――」
「面倒なことに、そうもいかないんだ」
「……どういうことだ?」
「間もなく、ここからほど近い桶狭間で合戦が起きる。その結果は知っているかい?」
歴史の授業で聞いたことのある地名。メルはすぐに思い出した。
「桶狭間の戦いの勝敗か? そのくらい知っているさ。織田信長が、今川義元を破った」
「その通り。だが、現代人たちをタイムスリップさせるほど強い神魂の影響で、時空の歯車に狂いが生じた―――緻密に計算された信長の奇襲が失敗し、歴史が変わるかもしれない」
「そうなると?」
「……後世の歴史も変わり、現代も変わる。君も、君の家族も、友人も、初めからいなかったことになる」
しばし、沈黙が支配した。メルがかろうじて口を開いた。
「それは―――困る」
「それを防ぐために、協力を頼みたい。織田軍に協力し、奇襲を成功させるんだ」
「……分かった。やるしかないだろう。しかし、それほど強い神魂の影響とは一体?」
「手短に、説明しよう……」
哲の言葉を聞いたメルは腕を組む。
「なるほど、厄介な神魂だ。本当に、それで義元を倒せるのか?」
「一種の賭けなのは否定しないさ」
「仕方あるまい、協力しよう。だが、行く前に一つ訊きたい」
「何だい?」
哲は首をかしげる。
「そこまで知っている君は、何者だ?」
「……」
「……。答えたくなければ、それでいい」
「物わかりのいい人で、良かった。さて」
哲は目の前の建造物を指さす。
「間もなく、あの砦―――善照寺砦というんだが、その門から織田軍が出陣する。その兵に紛れて、織田軍を助けてほしい」
「了解した」
「協力に感謝するよ。では、僕は他の巻き込まれた人たちを探しに行くから」
「分かった……Danke!」
情報を与えてくれたことに謝意を示し、メルは砦に向かって歩き出した。
皆様こんにちは、三城俊一でございます。
今回は、メルヒオール・ハルトマンさんにガイドにご登場いただきました。ありがとうございました。
さて、本シナリオでは皆様に戦国時代にタイムスリップしていただき、世に言う「桶狭間の戦い」に参加していただきます。PCをタイムスリップさせた神魂の影響で、信長が奇襲に失敗し、歴史が変わってしまう危機が迫っています。皆さんには、歴史を変えないための奮闘をしていただくことになります。具体的には、「織田軍の進軍」と「今川義元との戦闘」を助ける必要があります。
さて、ちょっと長いマスコメになりますので、ご容赦の程を。
【PL情報】
〇舞台
時は永禄3年(1575年)5月19日、場所は現在の愛知県にある桶狭間です。
〇背景
1560年、今川義元は大軍を率いて織田信長の領土に侵入します。
今川軍は2万5千、対する織田軍はわずか2千あまりの軍勢でしかありません。
圧倒的不利の中、信長は出陣します。
〇戦場の地形
戦いの舞台となる桶狭間は、起伏が多く見通しが悪い地形をしています。
今川義元は、戦いの日の正午頃、「桶狭間山」という小高い丘で休憩を取っています。
〇本来の戦いの経過
PCが出現するのは、織田軍のいる「善照寺砦」という砦です。この地点からPCは織田軍に参加します。
史実では、それ以降以下のような経緯を辿りました。
午前11時頃・・・・・・織田軍、砦を出発して桶狭間へ向かう。
午後1時頃・・・・・・視界をさえぎるほどの大雨が降る。この間、織田軍は敵に気付かれることなく今川軍の間近へ。
午後2時頃・・・・・・雨が上がると同時に、織田軍は桶狭間山を駆け上がり今川軍本陣に突入。乱戦の中義元を討ち取ります。
〇どうして歴史が変わりそうなの?
築地 哲がメルヒオールさんに語った内容は、次のとおり。
①織田軍の進軍を助けるはずだった豪雨がすぐやんでしまい、敵方の間者(スパイ)が罠を作るスキを作ってしまいました。以下の罠をなんとかしないと、今川軍に気づかれてしまいます。
・糸に触れると音が鳴る罠(鳴子)
・よく訓練された犬(あちこちに放ってある)
・踏むと大きな音のする癇癪玉(馬が驚いてしまう)
これらに対処して、織田軍を今川軍本陣まで進軍させないといけません。「ゲームクリア」の第1の条件です。
②今川義元の愛用する刀に神魂が宿り、妖刀となってしまいました。それを持った義元は、数人がかりでも太刀打ちできないほど戦闘能力が高くなっています。歴史を変えないよう、義元を打ち取る助けをしなければなりません。「ゲームクリア」の第2条件です。
今川軍は2万5千の大軍ですが、全軍が本陣にいるわけではありません。
本陣は小高い丘の上にあるので、義元を守っているのは実質数百名(ただし精鋭)です。丘の上の平らな部分は数百名で割といっぱいになる程度の広さしかないので、敵味方入り乱れ、激しく斬り合う乱戦となると思われます。
〇装備、戦いへの参加の流れ
神魂のおかげで甲冑を身に着けた状態で戦いに臨めます。武器は、日本刀、槍、弓矢ほか、戦国時代に存在した武器から選ぶことができます。また、「タイムスリップ直前にたまたま持っていたもの」を持ち込むことができますので、アクションにお書きください。(携行できるサイズのもの。銃器・爆弾などオーバーテクノロジーな武器は認められません)
ガイド本文にあるように、PCは「善照寺砦」から織田軍が出陣したときに、兵の中に紛れることで戦いに参加します。
〇NPCについて
築地 哲(つきじ・てつ)。16歳くらいに見える、中肉中背の少年。現代人の格好をしていますが、いろいろな情報を知っていること、歴史を変えないことを目的としている以外は謎の存在です。PCに対しては、突然現れて情報を与える役割を果たします。ただし、都合の悪いことは聞かれても答えないことがあります。
なお、彼と関わることは本シナリオで必須ではありません。一切何も知らないまま戦いに巻き込まれる、というアクションも可能になります。
〇アクションについて
この世界は夢ではないので、戦いの中大怪我をする可能性もあります。慎重な行動をお願いします。ですが、事件は神魂の影響なので、そのまま現代に戻れる可能性に賭けてもいいかもしれません。ろっこん発動を妨げる条件はありません。
PCの登場する場面は「進軍」と「今川軍への突入、戦闘」となります。上記の場面でどんな行動をするか、何ができそうかを考えると、アクションが書きやすくなると思います。
それでは、ご参加お待ちしております。歴史を動かすのは皆さんです!