悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

「頼むぞ！」
　八神修は、連れてきた犬を今川軍本陣そばに放った。首には、ポケットにあったスマホがくくりつけられている。
『今川義元、討ち取ったり！』
『松平軍、寝返り！』
　スマホは嘘の情報を大音量で流しながら、今川軍を混乱させる。
「お主、不思議な術を心得ておるのう」
　織田方の、地位のありそうな武将が馬上から修を呼び止めた。
「ええ、接近戦でなければお役に立てるでしょう」
「しかし、お主の手にしている火縄銃、それは実戦ではあまり使い物にならぬであろう。撃つまでに手間がかかりすぎる」
「そうでもありません。何人もの鉄砲隊をいくつかにわけ、順番に撃たせれば連射になります。今は敵のかく乱くらいにしかならなそうですが……」
　そう言って、修は敵陣に向かって火縄銃を構えた。
「なるほど、面白い。殿に進言してみよう。お主、この森可成の配下にならぬか」
　武将の言葉に、修は微笑して答える。
「俺には、戦いの後行かなければならない場所があるので……」
「ほう、では名だけでも聞いておこうか」
　修は、森可成というこの武将の名を聞いて、少しいたずら心を起こした。
「八神成利、幼名を蘭丸と申します」
　森蘭丸は、この戦いの後に生まれる、森可成の息子である。
「蘭丸……覚えておこう」

　今川軍の足軽が、まとめて二人なぎ払われた。
「かかってきなさい！」
　尾鎌蛇那伊は、両手に金砕棒を持って振り回す。その豪快な動きに反し、彼の神経は研ぎ澄まされていた。一点を見ることなく、視界は戦場全体に向けられている。可能な限り周囲の状況を正確に把握し、瞬時に判断を下す。触覚も極限まで神経が行き届き、蛇那伊に向けられた殺気や闘気は、たとえ背後からでも瞬時に気付かれた。本陣に突入する前に、呼吸を整え、気を全身に巡らし、身体能力を底上げした成果だった。
　刀や槍は棒で受け止められ、粉砕される。重みのある鈍器も、敵兵の鎧もろとも叩き潰された。遠心力の原理で、金砕棒の威力は数段高まっている。それでいて、ちょうどボートのオールのように、動かさない一点を定める繊細な棒捌きによって、棒の動きは完全にコントロールされていた。
　蛇那伊の全身の筋肉はすべて動員され、体の動きは無駄なく連動している。金砕棒は、まさに彼の体の延長であるかのようだった。
　蛇那伊に戦いを挑む兵卒は少しずつ減り、道が開けていく。
「義元への道はこじ開けたわよ！さあ、行きなさい！」
　蛇那伊は、味方の兵に向かって絶叫した。