悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

序

　―――人間五十年　下天のうちをくらぶれば　夢幻のごとくなり
　ひとたび生を得て　滅せぬものの　あるべきか―――

　清洲城の軍勢に出陣の命令を下したあと、信長は『敦盛』を舞った。信長は当年二七歳、今川義元との決戦を前にしても、その酷薄そうな表情は普段通りで、心境をおもんぱかる術は側近にもない。
「具足を持てい。全軍、出陣じゃ」
　決して大きな声ではないが、その甲高い声はよく通った。
「はっ、ただちに」
　森可成（よしなり）をはじめとする重臣たちは、配置につくべく、手際よく城の大広間を退出した。
　永禄三年（1560）５月19日未明のことだった。

「申し上げます！丸根・鷲巣の二つの砦には、すでに先方部隊が到達し、包囲戦を始めております。陥落は時間の問題かと」
　間者の報告を、今川義元は満足げに聞いた。
「うむ。下がって良い」
　今川軍の総勢はおよそ2万5千。対する織田軍の主力はせいぜい2千程度。堅実な戦をしていれば、負けるはずはない。
「功を焦って奇策に走るな。多少織田の抵抗に手間取ることもあろうが、着実に進軍すれば良いのだ。全軍にそう伝えよ」
　京都への進軍が叶えば、天下人の地位は手の届くところまでたぐり寄せられる。天下に覇を唱えるのは、この自分だ。
　天下に最も近い男―――義元はその名にふさわしい威風堂々とした態度で、軍勢に前進を命じた。全ては、義元にとって順調に動いていた。

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