悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間｜リアクション

悠久の時の彼方へ～決戦！桶狭間

「恩に着る！」
　蛇那伊の奮闘で開けた道を見逃さず、メルヒオール・ハルトマンと陸枷藍はともに本陣の中心に向かって突進していく。狙うは言うまでもなく、義元の首だ。
　メル愛用の木刀は、ろっこん「妖刀村正」の力で日本刀に変えられていた。目標はあくまでも義元一人。周囲の雑兵は軽くいなす程度にあしらい、体力を温存してきた。狙うは鎧の隙間。居合、燕返し、三段突きと、使える限りの剣技はすべて活用する。
　メルに付き従うように、藍も奮闘を続けていた。基本的には、メルを始めとする味方を倒されないような補助に徹している。
「覚悟！」
　敵兵が一人、刀を振りあげて斬りかかってくる。藍はすかさず敵兵に掌を向け、ろっこん「Repel」を発動する。今川軍の兵卒の塊の中に吹き飛ばされる兵。突撃してくる相手や飛んできた弓矢には、なるべく敵がいる方向に向かって吹き飛ばし、今川軍を妨害する。この乱戦だ、適当に吹っ飛ばすだけでも効果はある。

　切り結ぶ最中、メルは二人がかりで向かってくる敵兵を視認した。咄嗟に足元にあった槍の持ち手部分を拾うと、ろっこんで日本刀に変える。片方の攻撃は受太刀で防ぎ、もう片方には新たに作り出した日本刀を投擲して急場を凌いだ。
　明らかに隙の大きな相手が向かってくると、藍は容赦なく急所を狙って鎧通しで斬りかかる。返り血が顔にかかるが、その動きにためらいはない。人を殺すことより、自分やメルが死ぬことのほうがよほど怖い。妙なためらいでメルの足を引っ張ったりするのは嫌だ。
「あれが義元か！」
　メルは藍に目配せする。二人はお互いの役割を瞬時に了解した。藍は催涙スプレーを義元の顔にぶちまける。相手が怯んだ隙にメルがしとめる。
「くらえ！」
　義元の間近に飛び込み、催涙スプレーを思い切り吹き付ける藍。
　しかし―――
「！」
　眼前から、義元の姿は消えていた。
「毒か何かか？姑息な手を使う」
　上から、義元の声が聞こえる。信じがたいことに、義元は跳躍して攻撃を避けたのだ。
「藍！」
　気づいたときには、メルが藍を庇う形で、義元の太刀を受けていた。
「藍、一旦退くぞ」
「メル……」
「命は大事だ。退くことは、恐れではない！」