月夜の晩に｜リアクション

月夜の晩に

０６――【学食】
　学食に陣取った朱音と奈々美、ほのかの元には、かおる子を介して、他の者たちの行動に関する情報が次々と入って来ていた。
　朱音は、学食の隅のテーブルに座して、持参したノートを広げ、そこに書いた校舎の見取り図に、それぞれ印をつけて行く。
　バツ印は調べ終わって何もなかった場所、ピンクのマーカーで塗られているのはろうそくが発見された場所、といった具合だ。
「北校舎の方が、調べるのに時間がかかってるみたいね」
　その印を眺めて、朱音が呟く。
「けど、ろうそくはすでに二本、しかも両方の校舎から見つかっとる。ちゅうことは、残る二本もそれぞれの校舎のどっかにあるかもしれへんで」
　見取り図を眺めて、奈々美が推測を口にした。
「それは、あるかも」
　うんうんとうなずきつつ、朱音はつと顔を上げる。
「それにしても、かおる子さんはどこでも縦横無尽ね」
　言って彼女は、目を輝かせてかおる子を見やった。
「ねぇねぇ、かおる子さんは、やっぱり幽霊なの？　そんな場合じゃないってわかってるんだけどねぇ。好奇心がうずうずするのよ～」
「私は――」
　何か言いかけ、かおる子は誰かに呼ばれたかのように、顔を上げた。
「ごめんなさい。夏朝さんが呼んでいるので、行きます」
　断って、すいと消えた。
「答えはまた、あとで聞かせてね～」
　それへ返して、朱音は小さく手をふる。
　そこへやって来たのは、海美と由貴、キリエの三人だ。
　彼らが来ることは、朱音たちもかおる子から知らされていたので、笑顔で出迎える。
「一人で更衣室にいたんやて？　怖かったやろ。でも、もう大丈夫やで」
　奈々美が声をかけ、椅子を勧めてから、海美からどうやってこの世界に来たのかを問うた。海美は、腰を下ろすと、最初に由貴たちと出会った時と同じように、つたない言葉で、寝子高の近くにいて気づいたらこの世界にいたことを話す。
　それを聞いて、奈々美と朱音、ほのかの三人は思わず顔を見合わせた。
「つまり、あの教室以外の場所にも、この世界への扉が開き始めているってことね」
　眉をひそめて、朱音が呟く。
「なんかヤバイことになって来た、いうことやな。はよ、残り二本のろうそくを見つけて、世界のつながりちゅうやつを断たんと」
　奈々美も珍しく、真剣な顔つきで言ってうなずいた。
　その時、北校舎へ行っていたかおる子が戻って来た。
「ほのかさん、琴美さんが、見つかりました」
「琴美が？」
　ほのかが、思わず声を上げる。
「どこにおったんや？」
「北校舎三階のコンピューター室に」
　尋ねる奈々美に、かおる子が答える。
「ほのかちゃん、行ってあげたら？　琴美ちゃんもきっと、君の顔を見たら、安心すると思うよ」
　朱音の言葉に、奈々美もうなずいた。
「うちも、それがええ思うわ。北校舎までは、うちが一緒に行くよって、心配せんでええ」
「そうするのです。ここの守りは、私たちがいるです」
　キリエも横から口を挟む。
「お、俺も、がんばる」
　由貴も、箒を片手にうなずいた。
「みんな、ありがとう」
　うなずくと、ほのかは奈々美をふり返った。
「奈々美さん、行きましょう」
「了解や！」
　奈々美が元気よくうなずく。
　こうして二人は、学食をあとにしたのだった。