スイート・タイフーンにご注意を？｜リアクション

スイート・タイフーンにご注意を？

「確かに、な。夢の……いや、悪夢のような光景だ」
　台風が来る、という事で色々飛ばぬよう整骨院の前を掃除していた伊織源一もまた溜息混じりに肯いた。右を向いても、左を向いてもお菓子だらけの光景は、苦手な人からすれば地獄とも言える光景だろう。まぁ、先ほどの台詞を読んだ方は気付くかもしれないが、源一はお菓子がすきなようだが。
（また、よく解らん事に巻き込まれたな。正直言うと夢のような光景だが、甘味ばかり摂るのは体に悪い）
　先ほど少し本音が漏れているとは露知らず、真面目な顔で源一は辺りを見渡す。家の事を考えると、あまり長居はしたくない。
「テオの声がしたけどさ。あの雲をどうにかすればいいみたいだぜ！」
　勘三郎が指差した先には、綿菓子の雲。それを見ながら源一はふむ、と肯く。
「ならば、始末しなければな」
　そういいながら落ちて来た板チョコを頬張る姿に、「大丈夫かな……」と思わず呟く勘三郎。彼もまた早く解決せねば、と気合いを入れる。
「それじゃ、俺はあの雲へ向かうぜ！　ついてきな！」
　そう言うと、彼は大きな声で鴉の鳴き真似をする。勘三郎のろっこん『腹ぺこガラス』はそうする事でハシブトガラスへと変身できるのだ。通常の６倍速で空腹になっていき、限界に達すると変身が解けるというデメリットがあるが、前に食べていたお菓子のお陰か、少しは大丈夫そうだ。ただ、強風が吹いていることを除けば！
（いくぞ……っとっとっとっ！？）
　強風に煽られ、どこからともなく溢れたババロアへとつっこもうとする勘三郎。それをすかさず源一がフォローする。
「あっち、だな」
　源一の言葉に、勘三郎が肯く。１人と１羽は共にシーサイドタウンのビルへ向かうことになった。強風の中飛んでいく勘三郎は何度もあおられ、ババロアの川やお菓子溜りに突っ込んでは源一に助けられる。そのため、ビルへ到着後、変身が解けた勘三郎は「飛ばないほうが、良かったかも」と少しがっかりしたという。

　その頃。強風の中を行くのは彼らだけではなかった。自宅で台風の準備をしていた桜庭円もまたテオの声を聞き、彼を助けるべく進んでいた。声が聞こえた際、思わずテオに「大丈夫？」と問いかけたが、悲鳴からそうではないだろう、と予測できた。
（テオ、落ちたみたいだけど大丈夫かなぁ）
　水着の上にコートを羽織、玄関を出る。風に乗って甘い香りがし、少し離れた所で淡い黄色が道を支配しようとしている。これはいよいよ危なくなってきた、と思っていると足音がした。
「また神魂の所為かよ……。いい加減にしてくれ」
　そんな呟きが聞こえる。よく見ると御剣刀が愚痴りながら走っていた。剣術の修行をしようとした矢先に巻き込まれ、テオの声を聞いたようだ。
「あ、刀くんも巻き込まれてたのか～。テオ、なんかまずい事になってるっぽいね」
「もしかして、何かに落ちたのか？」
「うん。そんな感じがする」
　円の言葉に、後は俺に任せておけ、と胸を叩く刀。しかし、雲の事を思い出し表情を険しくする。
「まぁ、あの雲を潰さなきゃならないんだよな。……空を飛べないとあそこまで届かないだろう」
「ねこったーだと、なんか重力が弱くなってるから高いところに行ったら届くかも～ってあるよ！」
「本当か？」
　刀の言葉に、円はねこったーを見せる。それで何かを思い出したのか「寝子高の屋上にいってみようかな」と刀は呟く。一方の円はねこったーにぽちぽちと気になる事を書き込んでいた。
・どの川が氾濫しているか
・テオを見たか
・テオの様子が変わった瞬間の川の状況もどうだったか
　この３点を聞こうと思ったのは、テオが言葉を放ったときの状況である。テオが足を踏み外し、何かに落ちたような感じの途切れ方だった。そして、彼は「川の水がババロアになって増幅している」と言っていた。
「テオを助けに行くよ。刀くんはどうする？」
「あの雲を潰す。ちょっと風が強いけど、寝子高にいこうと思う」
　円と刀は途中まで一緒に行動する事になった。