スイート・タイフーンにご注意を？｜リアクション

スイート・タイフーンにご注意を？

　星ヶ丘寮の一室。空からお菓子が降って来る光景に、維都月茉菜は目をキラキラと輝かせた。暫くの間窓に噛り付いて見つめていた物の、彼女は何を思ったのか漁用の大網と大きな袋を用意した。
「よーし、これで準備万端だよ♪」
　茉菜はそう言うと、喜び勇んで外へ。そして網を広げてお菓子をキャッチすると袋へ入れていく。
（飴にチョコレートにキャラメル！　お煎餅にポテトチップにパッキーもあるっ！　大漁だねっ！）
　袋に溜まっていくお菓子を見ながら、あと２、３枚ほど袋を用意しておこうかな、と茉菜は考える。そうしながらも、手を休めずにシーサイドタウンへと突き進んだ。ふと、空を見ると台風と思わしき雲がシーサイドタウンへ向かっているのが見えた。
「あっちにいったらもっと一杯ゲットできるかな？　いってみよう！」
　おおはしゃぎな茉菜はテンションだだ上がりのまま、シーサイドタウンへ続く道を進んでいく。
　なお、そんな姿は月詠とジェレミアにばっちり目撃されていた。

「ん？」
茉菜が星ヶ丘駅前を通っていると、一羽の鳥が風に煽られながら飛んでいた。黒い尾羽のその鳥は、駅舎から出て行ったように見えた。
（避難していたのかな？）
　少し疲れを覚えた茉菜もまた休憩しようと駅舎へ入る。と、そこには書道担当の教師、瓜山メイがいた。
「茉菜さんではありませんか。危ないですから、ここで待っていてはどうでしょう？　急にお菓子が降って来るなんて……」
「ええっと……」
　心配性な彼女は不安げな顔で茉菜に問いかける。茉菜はこの現象をどう説明しようかと悩んでいると、メイは苦笑した。
「リアルな夢ですね。茉菜さんともここでお会いするなんて……。うふふ、なんだか夢から覚めるのが楽しみです」
「うんうん。私も、夢で瓜山先生に会えるなんておもわなかった！　はいっ、チョコレートとかあるので食べて！」
　自然とやわらかい笑顔に戻ったメイにそう言われ、茉菜もまた、そういう事にしておいた。そして、お菓子をいくつか渡すと、メイは笑顔で感謝の意を伝える。暫くの間たあいの無い会話を楽しんで休憩した後、茉菜は再びシーサイドタウンへと進んでいった。
　その背中を見送りつつ、メイはふぅ、と小さく溜息をつく。
「時子さんも夢と言っていましたし……。これは夢、なんですよね？」
　メイはそう言いながらチョコレートを口にする。そうしながら、茉菜より先に現れた時子がどこへ行ったのか。そして茉菜もこのお菓子の雨の中どこへ向かったのだろう、と心配になるのだった。

（ねこったー、通じるみたいだな）
　何気なく色々情報を書き込んだ物の、反応を見て肯く月詠。ジェレミアもまた次々に上がってくる情報を見ながら別の事を考えていた。
（このお菓子が個別包装でよかった）
　猫たちが食べて体調を壊さずに済んだ、と安堵の息をつくジェレミア。そんな彼が一つの情報に目を奪われた。
「あの綿菓子の雲をなんとかしないといけないのか……」
「そのようだね。雲が下に下りてきているのか？　少し、空が狭い気がするね」
　月詠は肯きながらシーサイドタウン方面へと視線を動かす。
（島で高い建物がある場所は主にシーサイドタウンだが……）
　彼女は風の流れなどを見ながら呟き、１つ肯くとジェレミアへと向き直った。彼もまた何か考えたらしく、月詠へ真剣な眼差しを向ける。
「俺はステラ・デッラ・コリーナの屋上から近づけるかやってみるよ」
「解った。私はシーサイドタウンのビルを当たる。何かあれば連絡しよう」
　月詠はそう言うと、シーサイドタウンへと向かい始める。ジェレミアは１つ肯くとステラ・デッラ・コリーナへと向かうのであった。

　――旧市街
「こりゃぁ、ちょっと降りすぎだ……」
　そう呟いたのは鴉を思わせる黒髪の少年、山田勘三郎。彼は先ほどまで、たくさん降って来るお菓子を前に『思わず』拾い集めていた。が、さすがに多いな、と思ったらしい。