スイート・タイフーンにご注意を？｜リアクション

スイート・タイフーンにご注意を？

承：お菓子は恵みか天災か

　とある施設。そこの子供たちは徐々に強くなる雨風に興味を持ったり、おびえたりと様々な反応を見せていた。
　自室に居た津田亮悟は台風の雨風を「すげぇ、強いな」と何気なく見ていたのだが、急に空からお菓子が降ってきて目が留まる。最初は「？」となっていたようだが……、ややあって窓をあけ、飴をキャッチ。そして口に入れればサイダーの味がしゅわり、と口いっぱいに広がる。
（いつもの『変な』現象か？　まぁ、いっか。美味しいから）
　そう思いながら窓から手を伸ばせば、今度はチョコレートが降ってきた。甘い香りに亮悟は僅かに嬉しそうな顔になる。
（これ集めれば当分はおやつ困らねぇな。拾いに行くか）
　彼はちらり、と机に置かれたレインコートの包みを見たが、「いらねぇか」と置いていくことに。
（どうせ濡れるわけじゃねぇし、傘も要らないよな）
　と、そのまま玄関を出る。こうして、亮悟はお菓子が降る中街へと繰り出したのであった。

　――星ヶ丘。
　アトリエにいた旅鴉月詠は外に出る前、近くにあったダンボールを被って頭を守っていた。なんとなく「コードネームが『蛇』の傭兵みたいだな」とか呟いてみたりするがまぁ、ご愛嬌。本当はきぐるみや安全帽があればよかった、と彼女は思う。というのも、雹の恐ろしさを知っているが故であった。
「霰というのは、質量と速度によっては車を凹ませるし、生物が死ぬ程危険だ。……パラパラと降っててちょっと痛いで済んでるのが幸いだね」
　誰に語るでもなくお菓子を拾い上げながら月詠は言葉を続ける。そうしながらも、彼女はねこったーに風向きを書き込んでいく。
（また巻き込まれたようだね。ならば、残ってしまった私は私の仕事を始めようか）
　そうしながらも、視線は自然とシーサイドタウンへと向けられた。テオの言葉を聞いていた彼女は、ふむ、と唸る。
「あまりゆっくりもしていられない、か」
　呟きながら月詠が暫く歩いていると、とある公園に出た。そこでは獣医のジェレミア・ベルトーニがライフワークの一環としている野良猫調査をしているところだった。彼もまた巻き込まれ、降ってきた飴にきょとん、となる。
（生暖かい風が吹いてきたかと思えば……飴？）
　何かの冗談かと思ったジェレミア。『ひと』である彼は今まで比較的ライトな神魂トラブルに巻き込まれた事がある。が、その際は「さすが神秘の国だね」と納得してしまった。しかし、これはどうだろうか？　次々に飴だけではなく色々なお菓子が降って来る。同じように巻き込まれた猫たちも困惑しているようで、ジェレミアも真剣に考えた。
（夢、かな。昨晩急患が入って余り寝ていないせいだね……。という事は悠長にしていられないな）
　早く起きなくては、現実の自分がずぶ濡れになる！　と自分の頬を叩くジェレミア。しかし、けっこう痛い。そんな彼を心配そうに見上げる猫たちを驚かせぬよう、月詠はゆっくりと近づいた。
「結構慌てているようだね」
「だ、誰だい？！」
　声をかけられ、驚くジェレミアに、月詠は軽く名乗ってから天を見上げる。
「ずぶ濡れになる事はないと思うよ。この世界に居る間は」
「でも、これは夢じゃあ……？」
　その言葉と気配から彼が『ひと』であると感じた月詠は「そうかもしれないね」と軽く言って懐からチョコレートを取り出す。
「ま、取り乱しても始まらないよ。これ、食べるかい？」
　慣れた様子で状況になじむ月詠に呆気にとられつつも、手渡されたチョコレートを受け取って口にする。と、チョコレート特有の風味と、中に入っていただろうレモンジュレの爽やかな酸味が口いっぱいに広がった。
（夢ならば、このおいしさも……）
　ジェレミアは少し落ち着きを取り戻しつつ、次に取るべき行動を模索した。