大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～｜リアクション

大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～

●リア充マーチ

　新井米太郎は霧切翠子と協力しながら半魚人たちと戦っていたが、お互いのろっこんの発動源が「守りたい・助けたいと思う気持ち」であるので、米太郎や周囲の仲間のろっこんを翠子がうっかり無効化してしまう事が何度かあり、気持ちとは裏腹に苦戦を強いられて体力を消耗させていた。

　米太郎はできる事なら自分を飛ばし、巨大サンマの顔面にかかと落としを喰らわせてやりたかったのだが、米太郎のろっこん『似非ヒロイズム』の使用限界は一日23分しかないのだ。戦い始めてから既に相当の時間が立っている。今度飛べば、翠子を半魚人の大群の中に一人残したまま戻って来れないかもしれないと思うと、そうする事は躊躇ってしまう。

　その時、どこからか勇壮なマーチが響いてきた。

　一体何が起こったのかと、半魚人や防衛チームの間に緊張が走った――　

　ＢＧＭと共に姿を表したのはアフロヘアーに筋骨隆々な男、山田与太郎。

　彼はろっこんに目覚めた時に（嫉妬の）神の声を聞いたと思い込んでおり、敬虔な神の使徒として、リア充撲滅のために日々を過ごしているらしい可哀想な人物である。

　今回は米太郎と翠子の様子に何らかの神託を感じてやって来たのだが、よく見れば今はそれどころではない程に危険な状態である。
　ひとまず神から賜りしミッションは幻聴という事にして、この場を何とか納めなければ、襲い来る半魚人の群れに蹂躙されて全滅だ。

　与太郎は商店街の店から持ってきたドライアイスを取り出すと、周囲にばら撒く。

　するともくもくと煙が立ち込め、煙幕になって、味方の逃走を助ける……はずだったが、ドライアイスの煙はそれほど広がらずに、足元に溜まって漂うばかり。
　煙幕というよりは、『アフロ与太郎・オン・ステージ！』なムードが漂う……

　だが、想定通りとは行かなかったものの幸運な事に、マーチに乗っての与太郎の登場からドライアイスのムーディーな演出への流れにあっけにとられていたのは、米太郎や翠子だけではなかった。
　防衛チームを圧殺せんと歩を進めていた半魚人軍団までもが、予想外の出来事に調子を狂わされて呆気にとられていたのだ。

　混沌の戦場に一瞬ではあったが空白が生まれた。　

「こんなサンマだらけの島に居られるか！　僕は帰らせて貰うぞ！」

　一足先に我に返った米太郎は、今が逃げ出す格好のチャンスと判断し、翠子の手を引いて九夜山へ向かって撤退を始めた。