星ヶ丘寮の『ＰＫ』｜リアクション

星ヶ丘寮の『ＰＫ』

８.星ヶ丘寮の『ＰＫ』

　『ＰＫ』本隊との戦いが始まる前、２つの迎撃戦があった。

　１つは姫神絵梨菜の一室で行われた。
　バレエのレッスンルームとして改装されたその部屋には、壁側に大きな１枚鏡、そこにはスカート丈をぎりぎりまで短くした制服姿の絵梨菜が映っている。板張りの床にはピカピカにワックスが掛けられており、彼女の下着の色が映りこむのではないかというほどであった。
　「下着泥棒なんて女の子の敵だよっ！　許せないっ！」
　と、頬を膨らませながら下準備をする絵梨菜、手には『ＰＫ』の予告状がくしゃくしゃになって握られている。
　洗濯済みの下着をバレエルームで部屋干し、私室の洋服ダンスには鍵をかける。ビデオカメラをセットして証拠を握れるような状態にする。
　「よしっ、あとは犯人がやってくるまで待機だねっ」
　そう言って、ひらりと身を翻した彼女は鏡の裏に備え付けられた収納スペースに身を隠した。
　扉と部屋干しの下着の位置を確認できるようにわずかに鏡をスライドさせて待つ。

　待つこと１時間ちょっと。
　絵梨菜は根気よく待ち続けた。
　そしてレッスンルームの扉は開かれる。

　（来たっ……！）

　流行る気持ちを抑えつつ入ってきた人物を見る。
　それは星ヶ丘寮のメイドだった。絵梨菜も見知った人物である。

　（なーんだ、メイドさんかぁ）

　「お嬢様ー？　お嬢様ー？」
　絵梨菜を探している様子である。けれど絵梨菜は出てこない。いつ『ＰＫ』がやってきてもいいように構えているのだ。
　「あら、ビデオが動いていますね。切り忘れでしょうか？」
　と、メイドはビデオカメラに気付き停止ボタンを押してしまう。

　（あーっ……！）

　メイドが去った後に録画しなおそうと絵梨菜は思い、メイドの様子を見守る。
　「いらっしゃらないのかしら。下着も部屋干しにされて……言ってくださったら洗濯に持っていきますのに」
　と、メイドが下着を回収始める。
　絵梨菜は作戦が瓦解していくのを感じた。と同時に違和感を覚える。

　（あれ……？）

　何故、あのメイドは周囲を気にしているのか。
　何故、角ハンガーごとではなく１枚１枚回収しているのか。
　何故、あのメイドは角ばった体格になっているのか。

　後姿だけとはいえ、見慣れたメイドを見間違うはずも無い。
　絵梨菜は１つの確信を持って、収納スペースから体を出して背後からそのメイドへと近づいた。

　近づくほどにわかる。その違和感。
　ヘッドドレスの下に女性物のパンツを被っている。
　角ばった体は男子のもので。絵梨菜は思い出せなかったが寝子高にいたような気がする横顔。

　まだ、彼は気付いていない。

　絵梨菜は飛びっきりの笑顔を用意して。彼の背中に声をかけた。
　「こんな所まで入って来れるなんて凄いねっ★」
　「ひっ、姫神絵梨菜ァ！？」
　おそらくろっこんで化けていたであろう男の顔は恐怖で引きつる。
　何故なら、すさまじい速さで迫り来る絵梨菜の足がスローモーションで見えたのだから。
　「ほんと、すっごい変態さんだねっ！」
　彼にとって僥倖だったのは、意識が途切れる前に絵梨菜のピンクの下着を拝むことができたことだった。
　右足で上段回し蹴り、側頭部に綺麗に入る。そのまま振りぬいた勢いで体を回転させて、左足の踵で胴蹴り。鳩尾の辺りに突き刺さる。
　ツインテールが激しく揺れ、彼女のスカートに隠し切れないといわんばかりに、はっきりとハイレグでフリル付きのピンク色が見える。
　「女の子の敵！」
　鳩尾に刺さった左踵を支点にして、右足で床を蹴る。そのまま右足を鞭のようにして、相手を袈裟切りに蹴りつける。
　「お仕置きだよっ！」
　そのまま綺麗に着地をし、倒立するように両手を床につけてバネのように跳躍。ふらついた相手より高い位置から踵落としを脳天へと直撃させたのだ。

　「いぇいっ」
　絵梨菜はすっきりした気分を味わいつつ、気絶した男をどうしようか考えつつ、ひとまずエレナへと連絡したのだった。