星ヶ丘寮の『ＰＫ』｜リアクション

星ヶ丘寮の『ＰＫ』

　ちちちちち。
　二階から鳥の囀る声。
　暖簾、襖、障子、畳に生け花。黒子の部屋よりも徹底したそれは、伝統的な日本家屋と言っても差し支えないほどだった。
　ここの家主は御巫時子。鳥と猫が好きな着物少女である。柔らかな印象を持つ彼女の装いはこの部屋の雰囲気にとても調和しているようだった。
　エレナから連絡を受けた彼女は、窓際でカードをつついている鳥たちを見つめる。
　「そういえば、あれは『予告状』なのでしょうか……」
　『ＰＫ』から狙われているといっても、彼女はいまいちピンと来ていないようだった。
　「普段が着物ですからあまり持っていませんしね……」
　と、小さな声で呟く。
　そういえばもうすぐお茶会の友人が来る時間だったと思い出し、着付けを直す。帯を締めなおし姿勢を正す。その一連の所作が優雅だった。

　「瑠歌さん、こんにちは。あら、そちらのお二人は……？」
　たおやかな動作で座布団を勧め、丁寧に礼をする時子。それに呼応するように瑠歌も礼を返す。タイプは違えど２人とも淑女であった。
　「遅くなってごめんなさい。『ＰＫ』事件の調査をされてる方々です。他にも沢山の方が動いていらっしゃるそうです」
　と瑠歌が、和と葵を紹介する。
　「星ヶ丘寮のお宅訪問という動画もけっこう需要あるかも」
　ビデオカメラを回しながら、そんなことを呟く和。
　「わー、すっごいところだねー。こんなところもあるんだー」
　無遠慮に葵は写真を撮る。
　「悪い方々ではないのですが……」
　と困った顔をする瑠歌。
　「ゆっくりしていってくださいね。あ、お茶と和菓子用意します……」
　穏やかな雰囲気のまま、時子はにっこりとした笑顔をするのだった。

　時子の淹れた日本茶と、細かい装飾の入った和三盆の砂糖菓子で一息をつく４人。
　それぞれの茶碗には押し印がしてあり、目立たないが高級感に溢れている。
　お茶の時間もほどほどに、『ＰＫ事件』の大まかな事情を時子は聞いた。

　「鳥さんたちにも警戒して頂きましょうか、宜しくお願いしますね……」
　時子は鳥たちに優しく微笑み、強く願うことで、ろっこんを発動させる。
　
　ぴぃ。
　と、鳥が一声鳴くと一斉に飛び立っていった。

　「鷹匠というか伝書鳩というかー」
　葵がそう呟く。
　「時子さんは鳥さんと仲良しさんなんですよ」
　瑠歌が微笑むと時子は照れたように俯く。
　「鳥も猫も好きなんです……」
　そう言って穏やかな時間が過ぎようとしていた中、スマートフォンを覗いていた和が声を上げる。

　「あ、『もう一度、予告状を読み直せ』？　どういうこと？」
　その声を受けて、瑠歌と時子はカードを取り出す。それを後ろから和と葵が覗き込む。

　『星ヶ丘寮生の皆様、今宵貴殿のパンツを頂戴しに参ります、ｂｙ　Ｐａｎｔｓ　Ｋｉｌｌｅｒ』

　首を捻る面々。
　少しの思案の後、時子が控えめに声をかける。
　「あの、薫子さんが『Ｐａｎｔｓ』をズボン、ボトムスと読み替えたように、もしかしたら『貴殿』も男性という意味ではないのでは……？」
　和や葵がまとめたこれまでの騒ぎや調査報告を思い出すように時子は言葉を続ける。
　「『貴殿』には住居という意味もあります……」
　「そうすると？」
　和が言葉を求める。
　「つまり、元々対象は星ヶ丘寮全体だったということなのでしょうか」
　瑠歌が時子の言葉を受けて引き継いだ。
　「でも、それだと星ヶ丘寮で騒ぎを起こしたいみたいだよー？」
　メモ帳の空欄にペンでぐるぐると渦巻きを書きながら葵。
　「星ヶ丘寮の人間が星ヶ丘で騒ぎを起こしてさ、『誰が得をするの？』」
　そんな和の疑問に４人は考え込むのだった。

　その時、１羽の鳥が時子の肩に止まる。
　ピピィと鳴いて何かを伝えたようだった。

　「フィリアさんの部屋の前に人が集まっているそうです……」