みんなの秘密基地｜リアクション

みんなの秘密基地

　波の近くまできた由貴は海を眺めていた。そわそわとした表情で真横に動いた。蟹のような動作で小刻みに距離を縮めて、素早くしゃがみ込む。
　そっと顔を横に向けると、ふわふわとした毛並みのアンゴラ兎のぬいぐるみが手の届くところにあった。
　由貴はぬいぐるみの頭に触れた。手を置くだけでは満足できず、掌の全体を使って撫でた。
「ぬいぐるみを調べたら、持ち主がわかるかもしれないな。きっと、そうだ」
　自分に言い含めて由貴はぬいぐるみを手にした。じっと顔を見てから覆い被さるようにして抱き締めた。
　その様子を海面から顔を出した勘助が見ていた。
「なんか、可愛いなあ」
　時間の経過でろっこんは解除されていた。勘助は立ち上がると由貴の方に歩いていった。
　波音の違いで気付いたのか。由貴は勢いよく顔を上げた。驚いた表情で瞬時にぬいぐるみを元に戻した。
　慌てて立ち去ろうとする由貴を勘助が呼び止めた。
「あ、あの、キミも、ぬいぐるみが、好き、なのかな……」
「俺は男だぞ。そんなもん、好きなわけないじゃん」
　怒った口調の由貴に、そう、なんだ、と勘助は脱力した様子で返した。
「……でも、もふもふした物は嫌いじゃない」
「え、それって」
　勘助の表情が明るくなる。顔を赤くした由貴は砂浜を走っていった。
「……本当に、可愛いなあ」
　走る少年の後ろ姿を勘助は穏やかな目で見送った。