みんなの秘密基地｜リアクション

みんなの秘密基地

　海水パンツに着替えた瑠樹は一人で黙々と材料を集めていた。波で流れ着いた物は岩壁の近くに纏めて置いた。今は紐の代わりになる蔓の回収に忙しい。岩壁の一部に足を掛けて仰け反るように引っ張っていた。
　そこに海美が声を掛けた。
「なにやってるのー！」
「このツルが欲しいんだけど、なかなか取れなくてねぇ」
「わかったよ！　わたしもがんばる！」
　海美は瑠樹の後ろに付いて蔓を握った。二人で掛け声を決めて引っ張った。最初の強い抵抗は時間と共に失われ、最後は一気に引き抜かれた。
　得られた達成感で海美が飛び跳ねて喜んだ。
「やったね！　でも、なんにつかうの？」
「秘密基地を作る時のヒモに使うんだよぉ。だいぶ長いから、あれだねぇ。切った方がいいかなぁ」
　瑠樹はのんびりとした口調できびきびと動いて、集めた物の中から二つの貝殻を持ってきた。柳の葉に似て平たく、片方には細かい突起がびっしりと付いていた。一つを海美に渡すと、見ていてねぇ、と取ったばかりの蔓に貝の一片を宛がった。
　気負いのない顔で瑠樹は腕全体を前後に小刻みに動かした。それ自体が一本のノコギリとなって瞬く間に蔓を切断した。
「こんな感じで切ってくれるかなぁ」
「わかった、やってみる！」
「その間にオレは基地の壁を作っておくねぇ」
　すでに何本かの蔓は紐として使える状態にあった。拾ってきた木の枝を砂浜に格子状に並べて、重なった部分を次々と蔓で結んでいった。
　側では海美が蔓と戦っていた。長大な海蛇に挑む漁師のように、このこのー、と貝殻の刃で何度も切り付けた。浅い傷は増えるが致命の一撃には繋がらない。はは、と呑気に笑う瑠樹が代わりに深い切り口を付けて渡した。
　その数分後、海美は切れた蔓を両手に持って掲げた。
「やったよ！　みてみて、おにいちゃん！」
「がんばったねぇ。えっと、名前は？」
「ピチピチの一ねんせい、小島海美だよ！」
「オレは三年の曖浜瑠樹。よろしくねぇ」
　簡単な自己紹介を済ませた二人は引き続き、秘密基地の製作に取り組むのだった。