ラクガキ画伯のワンダーランド｜リアクション

ラクガキ画伯のワンダーランド

【零】

「ラクガキの噂を聞いたんだが、生物部で網とケージ、借りられないか？」
「生物部の虫取り網とケージ？　それなら600円で貸し出すよ？」
　しれっと言い放つは逆巻天野である。
　それに対して顔をしかめる御剣刀。
「金取るのかよ……。分かった、２つ貸してくれ。小銭あるか？　大きいのしかないんだ、今」
　渋々、財布からを千円札２枚取り出そうとすると、朗らかな女子生徒の声がそれを静止する。
　生物部暫定部長の屋敷野梢だ。
「お金とかいりませーん！　それに私、貸すなんて言ってませんからー！」
　どうやら備品を勝手に貸し出そうとしている逆巻にカンカンの様子。
　それに対して、逆巻はあくまでも冷静な態度だ。
「お金は壊した時の金額ね。生物部、まだ公認もらってないし、部費と呼べるお金なんて殆どないだろう？　破損したら弁償してもらわないと」
「それはそうですが、部長に何の相談もなしに貸出しないでくださーい！」
　徐々にヒートアップしていく屋敷野。逆巻から網をぶん取ると、部長らしく宣言した。
「私たちもラクガキを何とかしましょうー。ですので、御剣君も協力してくださーい！」
　つまり、貸し出すのではなく、一緒に協力することで『共有』するということだ。
「ありがとう、屋敷野。当日はもう１人連れてくる」
　御剣は目を閉じて、軽く一礼を済ます。
　屋敷野が逆巻へ向き直ると、にっこり笑ってみせた。
「逆巻君、それでいいですよねー？　あと、勝手にふっかけた罰として『今度学食で何か奢る』で手を打ちますよ―」
「僕は別にふっかけてなんか……」
　逆巻が不貞腐れていると、屋敷野の瞳のハイライトが徐々に消え失せる。
「熱した鉄板の上で土下座、若しくは首輪をはめて隷属化でもいいんですよー？」
　殺る気だ、この娘……！
「……分かった、奢ろう」
　触らぬ仏と部長に祟りなし、てね。
　寺の子は心の中でそう呟いたのだった。

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