マンハントのお時間です。｜リアクション

マンハントのお時間です。

三章　捕捉された者達

　時間は午後二時半手前といったところか。
　一足先にホームから外に出た者達はそれぞれ待ち合わせ場所である噴水を確認し、待ち時間が潰せて身を隠せそうな場所を軽く見渡す。
　書店、コンビニ、喫茶店に木陰のベンチなど。その周辺で待ち合わせをしている者は数人、その中でも携帯電話やスマートフォンを手で持っているのは五人もいる。まだ誰が犯人グループなのかがわからない。
　しかし時間指定をしたとしても源次郎が来るタイミングがわからない以上、不信に思われる位置にはいないはず。
　後手に回るのが性に合わない轟は自分から仕掛けることした。
　と言っても大掛かりな仕掛けをするわけではない。携帯電話を手に持った者の近くを通り過ぎる度に、「今夜は源次郎さんのラーメンでも食いに行くかな～」と源次郎の名を出すだけ。
　不信に動きにならないように気をつけながら、五回目の台詞を繰り返したその時だ。
　改札口付近で擦れ違った青いキャップを被った青年の肩がピクリと動く。彼のスマートフォンを持つ手に不自然な力が入ったのを轟は見逃さなかった。
　しかしここで仕掛けるのはまずいだろう。轟は青年の顔を覚えると、そのまま改札口前を通り過ぎる。
　そしてそれを見ていたものが別にいた。
「ま、時が来れば自ずと分かるさ。ラスボスじいさんに電話してる時点で素人なのは明白だしね」
　轟が釣り上げた怪しい人物を自分もマークして、ねむるは苦笑交じりに呟くのだった。

「うわあ……！　おっきーい……！」
　家と学校の周辺が行動範囲である小学一年生の海美には、真新しいシーサイドタウン駅はとてもキラキラした場所に見えた。いろんなものが新鮮に見え、ついついきょろきょろとしてしまう。
「あ、あの人かな！？」
　海美は噴水の前に佇む赤いＴシャツを着た青年を見つける。その左手には黒のスマートフォン。彼の近くにはふわふわ毛並みの三毛猫が鎮座していた。
　あれは真央のろっこんで召喚された猫。先行した彼女は怪しい奴を発見し、三毛猫を監視役として配備しておいたのだ。
　青年は源次郎達に気づくと、一瞬眉を寄せた。それは源次郎と手を繋いでいる小さな女の子と、その後ろに控えるスーツの女性の姿のためだ。
　わざと源次郎がきょろきょろと周囲を見回してみれば、青年は素早くスマートフォンを操作する。
「霞さんですか？　俺は雄二君の友達です」
　青年――受け子の声は明るいものだった。気さくな笑みを浮かべているが、友人が事故を起こしたというのにそれが不似合いだとはわかっていないらしい。
「おお、雄二の友達か！　雄二は何処におるんじゃ？」
「雄二君は今被害者の人と重要な話をしている最中なので、俺が代理としてお金を受け取るように言われています。それにお爺さんに会わせる顔がないって、酷く悔やんでいて…」
　情に訴えようと受け子は更に言い募ろうと口を開きかけ――、それよりも先に悲鳴のような少女の声が割り込むように響いた。

「お爺ちゃん！！」

　必死の様子でかなえは源次郎へと駆け寄った。そして源次郎と手を繋いだままの海美の後ろに立ち、彼女を抱き締めるようにしてその両耳を塞ぐ。ここから先は子供が聞いてはいけないお話である。海美は目をつぶってきゃあと驚きの声を上げた。
「鷹富おじさんが事故起こして寝子島総合病院に運び込まれたって！　はよ行ってあげて！」
　かなえの目には薄っすらと涙が浮かんでおり、その状況の深刻さを示していた。無論涙は目薬である。
「し、しかし！　鷹富も大事じゃが、困ってる孫を放ってはおけるわけないじゃろう……！」
　血を吐くような声で源次郎は言い募った。
　ちなみに受け子は顔面蒼白、地味に膝が震えている。その目に浮かぶのは後悔の色だ。
「……後悔するならやらなければいいのに」
　ぽつりと時尾は呟いた。その呟きは犯人には届かない。