マンハントのお時間です。｜リアクション

マンハントのお時間です。

一章　旅行鞄に思いを詰めて

　鉄時尾はぽかんと口を開け、ダッシュで外へ消える店主を見ていた。
　島を案内してくれていた兄に急な仕事が入ったため、食事代を渡され近くのラーメン店『はらべこ』に入ったまではいい。そのラーメンがとても美味しかったのもいい。
　しかし店主がノリノリで孫（偽者）からのオレオレ詐欺の電話をスピーカーフォン中継の上、事故を起こしたはずの孫（本物）に店番任せて捕縛に向かうとか。規格外にもほどがある。
「……えっ。ちょっ。げ、源ジィ、待つのだ～！」
　真っ先に我に返って店を飛び出したのは後木真央だ。さすがの陸上部在籍の脚力か、瞬く間に彼女の姿も店の窓から見えなくなる。
　外からは必死に老人の暴走を止める真央の声が響いていた。しかしハイテンションとなった源次郎は呵々と笑い飛ばすのみ。どちらの声もだんだんと小さくなり、聞こえなくなる。
「直接お金を渡すって……そんな、危険です！　犯人達、店主さんに危害を加えるかもしれませんよ」
　時尾が口にした最悪の可能性に、店の中がざわりと動く。
　源次郎は『ラスボスじじい』との異名があっても齢七十歳の老人だ。本当の本当に、万が一という可能性もあるかもしれない。……かなり想像しにくいが。
　空となった丼をカウンターに置き、毒島林檎は立ち上がった。
「……全く相変わらず無鉄砲だな、源次郎さん」
　ぽそりと『あんまり危険な事ばかりするのは心配だよ！』と小声で漏れるのは彼女の本心。
　それに呼応するように食事を終えた客達は次々と立ち上がり、それぞれ食事代をテーブルに置いて外へ向かう。
「話聞いちゃったし、これはこれで面白そうだからうちも混ざっちゃおうかなぁ」
　楽しげに笑う壬生由貴奈は出入り口で振り返ると、
「あっ、ラーメンごちそうさま。美味しかったよぉ」
　そう言って開けっ放しだった店の引き戸を閉めて出て行った。
　それに慌てたのはやっとラーメンを食べ終えた時尾だ。
「とても美味しかったです、ごちそうさまでした！」
　カウンターにラーメン代を置き、時尾は慌てて皆の後を追う。寝子島に来てまだ数日と島の地理に疎いため、はぐれてしまうと大変だ。
　必死に客達の背中を必死に追いかける時雄に、後ろから慌てた雄二の声がかかる。
「お嬢ちゃん、お金多すぎっスよー！？」
　時尾は兄から渡された昼食代をそのまま置いてきたのだが、五千円はさすがに多すぎだった。雄二がお釣りを握って店の外に出た時には、すでに時尾の姿はない。
「爺ちゃんと一緒に戻るだろうから、お金は預かっておくっスか……あれ？」
　すごすごと店に戻った雄二は、そこでまだ店内に御巫時子と御剣刀がいることに気づく。
「二人はマンハント行かないっスか？」
「源次郎さんは心配ですけれど、皆さんがついていますし……。それに雄二さんだけだと大変でしょう？　私もお留守番しますね……」
「俺は後で合流するつもりだけど、食器を片付ける時間くらいはあるしさ」
　軽く笑って刀は辛うまジャンボラーメンの巨大丼を流しへ持って行った。
「それじゃ、お言葉に甘えるっス。二人共ありがとうっス！」
　雄二は大きく頭を下げ、二人の申し出をありがたく受け取った。

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