マンハントのお時間です。｜リアクション

マンハントのお時間です。

　参道商店街を抜けた道路では、やたらパンパンに膨れ上がった年季の入った布製の旅行鞄を抱えた源次郎とその服の裾を掴んで制止している真央の姿があった。
「だーかーらー……！　いくらなんでも危険なのだ！　相手は源ジィに暴行する気かもしれないし、下手したら勢い付いて殺す気だってあるかもしれないのだ！」
　思い直してくれと危険を口にする真央だが、対する源次郎は涼しい顔で歩き続けている。真央という錘があるせいか、その歩みはとても遅いもの。だからこそ他の者達もすぐに追いつくことができた。
「くくく、冬眠明けの熊に遭遇することと比べれば、オレオレ詐欺犯共など雑魚も雑魚よ……！」
「そうかもしれないけど、馬鹿正直に五十万入った鞄持って行くのはさすがに駄目なのだ～っ！」
　五十万、という単語に源次郎が一瞬心底邪悪な笑みを浮かべたのは見間違いだと思いたい。――間違いなくこのジジイ、五十万入りという鞄に仕込みをしている。しかもロクでもない系の。
　なおも歩き続けようとした源次郎だが、店から自分達を追ってきた客達を見ると、観念したのかその場に立ち止まる。急に止まられた真央が勢い余ってひっくり返りかけるが、ぎりぎりセーフのバランスでどうにか転ぶのを回避した。
「考え直してくれたのだっ？」
「いいや？」
　即答された真央は頭を抱えた。言葉でも体力勝負でも止めるのは無理だからだ。さすが『ラスボスじじい』、逃げるのコマンドはない。きっとデフォルトカーソル位置は迎撃のコマンドにあるのだろう。
「真面目の話、真央の言うよう最近の若造は思い切りがいいからのぅ。そこらの若造にのされるほど弱くはないつもりじゃが、確かにその危険性があるのは認めよう」
　しかし、と源次郎は続ける。
「煽った儂が言えた義理ではないが、仮にここで儂が手を引いても――無論引く気は毛頭ないが――お主ら詐欺犯を捕まえに行くじゃろう？　未来ある若者に、危険なことをして欲しくないのは儂とて同じ。
　何より参道商店街で詐欺は二件、未遂の三件を含めれば五件も起きておる。犯人達が馬鹿でないのなら、そろそろ河岸を変える頃合よ。捕まえる絶好の好機は今しかないのじゃ……！」
　そこで手を上げたのは『西野町とうふ店』の一人娘かつ看板娘の西野町かなえだ。
「未遂の一件はうちの店や。この間うちのお爺ちゃんが騙されかけてなぁ。犯人はここで捕まえんとあかん！」
　かなえの怒りに林檎も同意とばかりに頷く。
「ああ、老人を食い物にする奴らは許せない……！　親父やお袋も憤ってたしな……俺がサポートする」
　決意の表情で拳を握る林檎の『一緒に悪人を懲らしめようね！』という小さな声に、大きく頷いたのはライレエ・アーレンス。
「詐欺のやつらをコテンパンにするのは良い。だけど警察に世話になるようなやりすぎはダメだ」
　大捕り物に冷静さは必要不可欠だと、彼女はニッと笑う。
「あたしは爺さんのラーメンファンなんだぜ。詐欺グループのせいでラーメン食べられなくなりました、なんてなってほしくねぇだけだ」
「……ふむ。何やら案があるようじゃな？」
「ああ、実は――」
　ライレエの案が気に入ったのか、源次郎はニタリと笑みを浮かべる。しかしもう一手ほど策が欲しい。犯人の動揺を誘うようないい策が。
「お爺ちゃん、うちにも考えがあるで！　あのな――」
　かなえは源次郎達を見回すと、ひとつの案を口にした。
「――ってことなんやけど。これで思いっきり犯人揺さぶれるんとちゃうんかな？」
　ライレエとかなえの合わせ技は有効な策となった。これなら犯人達も手のひらの上で踊って――もとい観念してくれるだろう。
「くくく、採用じゃ！　面白くなってきおったわ……！」
　ばきばきと指を鳴らす源次郎を見て、それまで成り行きを見守っていた風雲児轟と八神修は決意する。
　誰かが大暴走したら絶対に止めよう、と。

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