マンハントのお時間です。｜リアクション

マンハントのお時間です。

「――い、言う！　言うから！」
　恐怖と痛みにより掛け子の心は圧し折れた。
「ついでにこれまで自分がやってきた事を正直に教えとくれ。言い切るまで内股をおろし金で下ろし続けるよぃ」
　半泣きで掛け子はべらべらと喋り出す。犯行の手口から仲間の特徴、リーダーがどこにいるかまで。
　あっさりと陥落した掛け子に瓢は残念そうに目を細めた。
「あの程度で爪が剥がれるわけないだろうに。医者に診せたって診断書は貰えないよ。……根性ないねぇ」
　つまらないとばかりに瓢が唇を尖らせ、ねむるはその反応に困ったように笑う。その時だ。

「……おぉい！　誰かいるのか！？」

　遠くから聞こえた声には聞き覚えがあった。
「おやおや、正義の味方のお出ましかい」
　瓢は気だるそうに呟くと面倒そうに掛け子の拘束を解く。涙でぐしゃぐしゃになったままの掛け子は唐突の開放に二人へ脅えた視線を送るのみ。
「ご苦労さん、お役目はおしまいさぁ。だけど最後に一つ、あっしらのことは御内密に。もし誰かに他言すれば……」
「い、言わない！　言いません！！」
「なら行きなぁ。先にお人よしがいるだろうから、そいつに外へ連れてってもらうんだねぇ」
　そう言って強く背中を叩けば、掛け子は転がるように駆け出した。
　慌しい足音が遠くなる中、ねむるは携帯電話で録画した尋問の一部始終動画を瓢に見せる。
「ところで瓢くん、録ったこの音声いる？」
　ねむるの提案に瓢はつまらなそうに目を細めた。
「録音なんていらんよ。今後強請る心算もないし、生の悲鳴じゃないなら興味も無いよ」
　にべもない瓢の答えに、ねむるは「それもそうか」と納得する。
「ところでそっちの仕事は終わったのかい？」
「今皆にメールしたところだよ。そろそろこの騒ぎもお終いかな？」
　大捕り物の結末を見届けるため、ねむるは瓢と共に地上へ繋がる別の出入り口へ向かうのだった。

　轟が気づいたのは偶然に等しかった。
　受け子以外の犯人を探して構内を探し回っていた時、搬入口付近の細い裏路地で薄く開いたマンホールを見つけただけ。
　不信な思いが拭えずマンホールの下へ声をかけ続けていると――ほどなくして慌しい足音が響いてきた。
　地下を必死に駆ける何者かは、涙と鼻水で汚れた必死の形相をした青年だった。マンホールから這い上がろうとしているが、焦りのため何度もずり落ちそうになっている。
　見かねた轟は手を差し伸べ、脱出を手伝ってやった。
「あ、あり、ありがとうございまずぅう～！」
「お、おう」
　手をがっしりと握り締められたまま、涙と鼻水ＭＡＸの青年に礼を言われた轟は引き気味だ。
　この青年の身に一体何が起こったのか。よほど恐ろしい目に遭ったらしいが、何処の誰に何をされてしまったのだろう。
　轟は不憫そうな視線を青年に向け――止まる。
　青年の背中には一枚の紙が張ってあった。

＜こいつが掛け子だよぉ＞

　それは別れ際に瓢が貼り付けた紙切れだった。オレオレ詐欺犯を野放しにするつもりなど、ねむると瓢には毛頭なかったのである。
　考えなくても轟の行動はひとつだった。
「大人しくお縄につくんだな、オレオレ詐欺犯」
「ひぇ？！」
　きょどる青年――掛け子の反応をシカトして、轟はしっかりとその手を握る。この脅えようから逃げ出す気力はないと思えたが念には念をだ。
「何があったかは知らないが因果応報なんだよ！　拘置所で反省するんだな！」
　何よりも島の人間を騙そうとした犯人を許す気なぞさらさらない。
　その迫力に、ずるずると掛け子の体から力が抜けた。彼を再度引っ張り上げて轟は言う。
「行くぞ。さあ、歩くんだ！」
　抵抗すらできず、掛け子はよろよろと歩き出した。脅えきった目で何度もマンホールを振り返りながら。