働く夏の日｜リアクション

働く夏の日

○オレンジ動物病院

　ジェレミア・ベルトーニはガーデニングを終えると、星ヶ丘の自宅隣接のオレンジ動物病院前に打水をした。
「少しはこれで涼しくなってくれると良いんだけれどね」
　部活へ向かう学生にも挨拶をする。
「おはようございます」
「おはようございますー」
　元気に返ってきた挨拶に微笑む。
「さあ、一日が始まるよ。今日もみんな無事だといいな」

　病院の一日は忙しい。
　処置を終えた患畜をひっかかれないよう気をつけながらケージに入れ、ジェレミアは声をかける。
「はい、ミーちゃん、よく頑張ったね。大丈夫だと思いますが、何かあったらまた連れてきてください。では、お大事に」
　カルテを書き終えて、次の患畜を迎える。
「高田ルルさん、どうぞ」
　犬や猫のワクチンを打ちに来てもらったり、健康診断で血液を取らせてもらったりの普段の業務の他に、この季節暑さで動物達の熱中症が多い。
「食欲はどうですか？　何か変わりはないですか」
　動物は人間の言葉で訴えることができない。ケガなら見た目でわかるが、具合の悪さは食欲や便通、目やにや毛づや、鳴き声の大きさなどで判断することになる。
　患畜さんの事は飼い主さんから話を聞かないとわからないから、小さなことでもゆっくり色々聞かせてもらっている。
　話を聞いていると、いかに皆がペットを我が子のごとく可愛がっているのかよく解って微笑ましい。
「毎日暑いですからね。ルルちゃんのお母さんも、気をつけてくださいね」
　つい、飼い主さんを○○ちゃんのお母さんとか、お兄ちゃんとか呼んでしまうくらいだ。
（その熱心さが子供達(ペット)を護る事にもつながるから、とても良い事だよ）
　と思うジェレミアである。
　残念なことに放任したり察しが悪かったりする飼い主だと、手遅れ寸前で連れて来られることもあるのだ。

「先生、急患です。大沢ペロさん、熱中症のようです」
　一息つこうとしたジェレミアは、看護師の言葉に立ち上がり指示を出す。
「処置室へ。冷房を最強にして、タライ用意。水掛けた後扇風機に当てます」
「ペロは外に出してないんですけど……」
　学生らしい少年がおろおろと言う。
「ペロくんのお兄ちゃん、室内でも日当たりのいい所だと体から水分無くなって体温コントロールできなくなっちゃうんだ。気をつけてあげてね」　
　幸いそれほど重症ではなさそうだ。
「氷嚢で太い血管を冷やします。点滴はしなくても大丈夫でしょう」
　人間の子供と違って医療費の免除はないので、入院となると結構物入りになる。
　この日も何匹か患畜さんが急患でやってきて、大わらわになるのだった。
　

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