働く夏の日｜リアクション

働く夏の日

○寝子島図書館

　旧市街の一角、森繁美術館近くの寝子島図書館。
　雪代伊織は１８歳のひよっこ図書司書だ。
（夏休みも中盤の為か図書館にも学生さんが多い気がしますね）
　図書の貸出記録に傷んだ本の補強、子供達への絵本の読み聞かせと大忙しだ。
　だが夏休みなので最近はアルバイトの学生達も少しずつ増えている。
「ふう、少し休憩……あら小淋さん、いえ、サボってるわけじゃありませんのよ？」
　声の出せない浅山小淋がスケッチブックと共に笑顔を向けた。
『今日はよろしくお願いします』　
　小淋は、寝子島に来てしばらくしてここでバイトを始めた。
　夏休みに突入してからもアルバイトは変わりなく入っている。
「おはようございます」
　ボサボサの髪で鋭い眼光のバイト、篠木昴も顔を出した。
　今日のシフトは雪代と篠木、浅山だ。
「そういえば書庫の棚の本を整理しなくては、とも思っておりました。さて、頑張りますわよ！」
　さっそく三人は作業に取り掛かる。
「地下にも結構な量の本が仕舞われてると聞くけれどこの部屋の蔵書量もかなりのものだと俺は思うよ」
　昴は作業をしながら小淋に話しかける。
「そういえば俺は本に詳しいわけではないから感じないのだけども、こうも蔵書が多いと珍しかったり探していた一冊が見つかるなんてこともありそうだよな。浅山は本とか好きそうだしそういうのやっぱあるか？」
『この図書館にはまだ出されてない見慣れない本も沢山あると聞きます』
　そう書いた小淋が、一冊の本に目を留めた。
　昴の言う通り、読書家の小淋は世に出回ってないような珍しい本や変わった本を見かけると少し興味を示してしまうのだ。
「まぁでも浅山なら仕事中にそんなことは……って、読んでるし」
　つい読みふけってしまっている小淋。
（……ちょっと珍しい光景かもしれない、見てよう）
　小淋が本を閉じるのを待って声をかけた。
「面白かったか？」　
　昴に指摘されてようやくハッと我に返る小淋。
【つ、つい……そ、そんなに夢中だったのでしょうか……？】
「……じゃ、そろそろ真面目に仕事するか」
　作業を再開した昴だが、本の仕舞い方に若干雑なところがあることに気づいた。
「……雪崩起きたりしないだろうな。伊織さん、浅山……気を付けて」
（言ってる傍から伊織さんが本の山を崩しそうな気がするのはなんでだ）
　反対側にいる伊織は、高いところの棚に手を伸ばしていた。
「……少し背が届きませんわね、背伸びをしたら届くでしょうか。うーん、なかなか届きません……きゃっ！？」
　がらがらどっしゃーん。

　伊織はバランスを崩し本棚に体重をかけてしまった。
　その結果向かい側にあった本棚が、本ごと倒れてしまったのである。
「み、皆さん怪我はございませんか！？」
【一気に雪崩れ込んできましたが、皆さん大丈夫でしょうか……！】
　小淋はからくも直撃を免れ、巻き込まれた人を気遣う。
　伊織も慌てて周りの無事を確認する。幸い埋まった人はいなかった。
「言った傍から何してるんだか……全く」
　昴は落ちてきた本が頭にぶつかっていたが、ケガには至らなかった。
　青くなっている伊織に軽くデコピンをして言いかける。
「そんな顔してもミスはミスで……」
　悪気があってのことではなく、歳の上下関係なくツッコミに手が出るタイプなのだ。
　それは伊織もわかっているはずなのだが。
「ごめんなさい……うぅ、皆さんの足を引っ張ってしまったようで……」
（……あれ、泣きそう？）
　伊織の様子を見て、さすがにやりすぎたかと心配になる昴。
（ほっぺた引っ張るくらいにしといたほうがよかったか？）
　いや、それもちょっと。
「すみません、さすがにやり過ぎた」
「いえ、私が悪いんです……」
　微妙な空気に、小淋ははらはらする。
『無事でよかったです。片づけましょうか』
　今度は気をつけて、散らばった本の片付けが始まる。

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