働く夏の日｜リアクション

働く夏の日

○宮祀青果店・神奈川うみねこ新聞

「いらっしゃませ、今日も暑いですね」
　宮祀智瑜は、旧市街で祖父母が営んでいる宮祀青果店の手伝いをしている。
　新鮮な野菜や果物がいっぱい並んでいる店先で店番をしていると、さっそくなじみのお客さんがやってきた。
「こんにちは、今日もお手伝いかい？　偉いねえ」　
「はい。いつもは学校終わってからだけど、夏休みは朝からお手伝いできるから頑張ります！　今日は何にしましょうか」
　照れ屋で控えめな智瑜だが、常連さんも多いし、小さい頃から知ってる人だと話が長くなる傾向がある。
「赤ちゃんが生まれたんですか？　おめでとうございますっ！　男の子ですか、女の子ですか？」
「大変ですね。夏バテしていませんか？　夏バテにはオクラやピーマンもおススメです。フルーツだとキウイやパイナップルも」　
「それじゃ、オクラとキウイをお願い」
「ありがとうございます！」
「いつもお手伝いしてるようだけど、宿題とか大丈夫なのかい？」
「宿題は夜にしてるので大丈夫ですよ。もう大分終わってますし。特に数学の宿題は終わるのが早かったですね」　
　好きな人が数学の先生であるおかげである。
「智瑜、配達を頼むよ」
お客が途切れたころ、お祖父ちゃんから声がかかる。
「はーい」
　自転車での配達も大切なお手伝いだ。
　一人暮らしの人も多いからお話に行くととても喜んでもらえる。
「あんまり遅くならないよう、ほどほどにね」
　前は配達から帰るのが遅いくて心配されたりもしたが、今はお祖父ちゃんたちも分かってくれている。
（私も元気な姿を見るのは嬉しいですし）

「あの、すみません……」
　配達に向かう途中、若い女性に声をかけられた。
「この地図の場所に行きたいのですが……」
　セミロングで肌が綺麗な女性の腕には「うみねこ新聞」と書かれた腕章があった。

　神奈川うみねこ新聞は県内全域をフォローする地方紙である。
　寝子島には「話題に事欠かず県民からの注目も熱い」という理由で特例で支局が置かれている。
　司馬佳乃は、本社に勤務して５年目の夏に急遽寝子島支局への異動を命じられた。
　特例だから記者も数人しかいないし、支局の建物も小さくて民家にしか見えない。
　そんな所に配属して数日。
　警察署を回ったり、役所の発表をチェックしたり、電話やFAXで届く行事予定や取材の依頼を取捨選択……と佳乃は朝から慌しい。
「あれ？　こっちじゃないのかな……？」
　取材先に向かう途中に、佳乃は不覚にも道に迷ってしまった。
「支局長の描いた地図が下手だからだよ、もーっ！」
　仕方ないので誰かに聞くことにした。
　そこに、配達の途中らしい自転車の少女――智瑜が通りかかったのである。

「ああ、ここなら、もう一つ向こうの通りです。よかったら一緒に行きましょう」
　地図をしばらく見て、智瑜が答える。
「ありがとうございます、でもお仕事は大丈夫ですか？」
　不安そうだった佳乃の表情が明るくなる。
「私もそこを通るので大丈夫ですよ。新聞記者さんですか？」　
「ええ、数日前にこちらに来たばかりなんです。支局長の地図がへたくそで迷っちゃって。あなたはバイト中ですか？　暑い中大変ですね」
「バイトというか、家のお手伝いなんです。祖父母がやっている八百屋なので」　
　取材先まで、二人は楽しく話を続けた。

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