働く夏の日｜リアクション

働く夏の日

○お仕事終了

　寝子島図書館。
　その後の作業も滞りなく終わって今日のバイトは終了だ。
「そうだ！　帰りに皆で買い食いでもしないか。いい鯛焼きを売ってるところを見つけたんだ。詫びというわけではないけれど二人に好きなだけ奢るよ。だからほら、機嫌治して……」
　デコピンのことをずっと気にしていたらしい昴。
　だが気にしていたのは伊織も同じだったらしい。
「とんでもない、色々ご迷惑をおかけしたお詫びに何かご馳走させてくださいまし！　たまには大人なところを見せませんと！」
「え、そ、そうか？　とにかく、浅山も遠慮するな、皆でのが美味いからさ」
『ご一緒していいのでしょうか。ありがとうございます』
　夕方とはいえ、涼しさはわずかばかり。
　図書館から一歩出ると、暑さに少し息詰まる。
　昴のお勧めの鯛焼き屋にやってきた三人は、思い思いの鯛焼きを注文した。
　昴を制し、バッグから財布を出そうとした伊織だが。
「ここは私が……あ、あれ？」
「どうしました？」
「お財布を家に忘れてきました……」
　真っ青になった伊織は再び若干涙目だ。
（ちっとも大人らしいとこを見せられませんね……）
「俺が払うよ。伊織さんにはまた今度ご馳走になるから」
「すみません……」
　しょんぼりした伊織だったが。
「あ、美味しい」
　大好物の甘いものを食べるとすぐ幸せになってしまうのだった。
　そんな伊織を微笑ましく見守り、小淋は鯛焼きを食べ終えてメモ帳を取りだす。
『ごちそうさまでした』
『おつかれさまでした、明日もまた宜しくお願いしますね』
　明日のバイトもまたちょっとだけ頑張れそうだ、と思う小淋だった。

　オレンジ動物病院も診療時間を終えた。
　ジェレミアは診察道具の片づけを済ませる。
「冷やす処置で済む子が多かったからまだ良かった。今日も動物達も無事に過ごせてひと安心だよ。おつかれさまでした」
　看護師たちに声をかけると、庭に出て満開の花を眺めた。

　メイド喫茶ねこのてでは、万里の仕事が終わった。
　あんなに涼やかに仕事をこなしていたのに、メイド服から私服に着替えたらぐったりだ。
「うう、一気に疲れが……」
　その場に座り込んでしまう。髪を整える気力もない。
（こんなだらしない姿で帰るくらいなら、メイド服で帰ったほうがいいかしら……？）
　そんなことを思う万里に。
「ニャー」
　レジカウンターの傍に佇む黒猫、橘さんがクールに一声鳴いた。

　神奈川うみねこ新聞寝子島支局。
（こんなに苦労して作っても、次の日になれば捨てられ、読者の記憶からも抜けていっちゃうのが新聞記事）
　どうにか入稿を間に合わせ、さまざまな雑務を終えた佳乃は思う。
（特に地方紙の地域欄なんて、トップにもなれないはっきり言って地味な部分。だけどわたしは実際に見てきた『生の寝子島』を少しでも読者に伝えたいの）
　
　仕事が終わった夜、佳乃は海岸へ車を走らせた。
「星が綺麗だな。本社にいた時とは見える景色がこんなに違うんだ」
　なんだか故郷の遠野を思い出す。
　本社にいた時はにぎやかだったけど、星が見えなくて寂しかった。
　星を見ながら、今日話したり見たりした人たちのことを思う。
　道を聞いた八百屋のバイトの子、暑い中着ぐるみで子供と遊ぶ人、凜と背筋を伸ばしたメイドさん……
　それぞれの笑顔を思い浮かべながら、自分の中に勇気がわいてくるのを感じる。

「よし、明日も頑張ろう！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆　　　　☆　　　　☆

　暑い中働く人たちの一日はこうして終わる。
　今日も一日、おつかれさまでした。
　
　

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