灯篭流しの夜は更けて｜リアクション

灯篭流しの夜は更けて

　屋敷野梢は、岩に腰掛けて、心の中で祖母と会話を交わしていた。
（おばーちゃん、見てますか？私、こうして元気に寝子島に帰ってきました！おじーちゃんも元気です。私も大丈夫です！働いてないおにーちゃんは……うーん、なんとかします。お父さん、お母さんも元気で、相変わらず仲良しですよ！）
　灯篭の流れるさまを見ていると、時間がゆっくりになったような感覚になる。
（そーいえば、知らない人と話さなきゃっていう風習がありましたね。帰らなかったとかいうご先祖様は、寂しかったのかな、心配だったのかな？でも、死んでも人が変わらないんだったら、それは嬉しいことですよね）
「よいしょっと」
　梢はゆっくりと岩から降りた。
（それじゃ、誰かと話しに行ってきます、おばーちゃん！）

　歩きだした梢だったが、早速自分の方が話しかけられた。
「こんばんは、初めまして」
優しそうな青年と、可愛らしい女の子の二人連れだ。カップルかな？
「こんばんは！」
　梢は元気よく返す。
「僕は白洲瀧といいます、こちらが妹の水澄」
「ご兄妹だったんですね！私は屋敷野梢です」
「灯篭流しには毎年来られるんですか？僕たちは久しぶりで……」
「あ、私も一緒です！小学生以来久しぶりに来ました。ちなみに瀧さんは学生さんですか？」
　温厚で話しやすい感じの瀧と会話しながら、ふと梢は妹の水澄の方をうかがった。あれ？なんだか機嫌が悪そう……。
　可愛い子なんだけど、なんだか睨まれてるような……何かぶつぶつ言ってない？
「おにーちゃんは渡さない……」とか聞こえたのは気のせいかな？
「あれ？水澄、挨拶くらいしたらどうだい。どうしたんだい、機嫌が悪そうだけど……。すいませんね、いつもはこんなことないんですけど。ほら、失礼だよ、水澄！」
　兄の言葉にはっとした顔をした水澄は、我に帰って慌てたようだった。
「ご、ごめんなさい。お兄ちゃんも、ごめんなさい……」
「気にしなくていいよ。あなたも寝子高生？」
　水澄に話しかけながら、梢は感づいた。
　なるほど、この娘はお兄ちゃんが大好きなんだ。風習だからお兄ちゃんが女の人と話してるのは仕方ないと思っていても、本当は許せないから、あんな態度になったんだ。
　心の中で苦笑しながらも、梢は思った。あんなに堂々とおにーちゃんが大好きなんて態度を取れるの、ちょっと羨ましいかも。