いつかのあの日の、｜リアクション

いつかのあの日の、

「ちわーっす、今日は英気を養いにきましたよっと」
　賑やかな声に引かれて万里が眼を向ければ、店先に陣取る女将と店員の前、黒髪に鮮やかな太陽の色した瞳の青年が立っている。
「え、臨時休業？」
「あちゃあ、臨時休業とは間が悪かったねえ」
　青年とここまでの道すがらに出会い連れ立って来たのだろうか、隣に立つちょっぴりくたびれた風貌の外国人男性がとぼけた口調で言いつつおでこをぴしゃりと叩く。
「そうなのよ、ごめんなさいねえ」
　女将に詫びられ、伊予祐はぐるりを見回す。
「でもこの様子じゃ、休業ってわけじゃなさそうだけど」
　居るだけで場が明るくなる常連客に、店員は自分のジョッキを掲げてみせる。
「え？　呑んでいってもいいって？」
　ピーター・ビアズリーが人の良さそうなたれ目の目尻を下げて笑う。
「いやあ、それじゃあお言葉に甘えようかなあ、祐君」
「だな、ピーターさん」
　大したものは出せないですが、と苦笑いする店員に、祐は無意味に胸を張ってみせる。
「酒飲めるなら全然OK！」
　ちょっと待ってて、と店員が一度店内に引っ込み、祐とピーターの分のビールジョッキを片手ずつに持って出て来る。祐は手渡されたジョッキでピーターと乾杯し、仁王立ちの格好で勢いよくビールをあおる。
「くうーッ、やっぱ生ビールうめぇ！」
「ほんとだねえ、美味しいねえ」
　ピーターは如才なく適当なビールケース椅子に腰を下ろし、女将が出してきた漬物をつまみに早速一杯始める。
　前に偶然ハナで顔を合わせて以来顔見知りのピーターと並んで座り、祐はようやく少し涼しくなり始めた夕方の風を汗ばんだ額に受ける。冷えたビールを喉に流し込む。
「毎日暑いけど、元気してたかい？」
「世間は休業ムードなのに寮のスタッフってもんは簡単に休み取れなくてさ」
　聞き上手なおじさんと人好きな青年は夕涼みをしながら世間話に興じる。
「人使い荒いし」
　一言ごとにビールを飲む祐の隣、ピーターはうんうんと頷きながらマイペースに酒を飲み糠漬けをつまむ。
「たまにはこうして酒飲まないとやってられねっての」
「大変だねえ」
「そう、大変なの、……っと」
　いつもより早いペースでビールを飲み干し、祐は空になったジョッキをちょっと不思議そうに眺める。
「あ、おかわりで！」
　向こうの席に並んで座る高校生の男女二人組と女子大生、祐とピーターの席にも焼き鳥の皿を届けて回る店員に元気よくジョッキを差し出す。