寝子島駅のロータリーを過ぎて、参道商店街の細い路地を何本か入る。薄紫色に染まる黄昏の空には、けれどまだ湿気を帯びた夏の暑気と蝉の声が満ちている。
昔ながらの住宅が並ぶ路地のどん詰まり、ぽつり、と赤提灯が掛けられた軒がある。引き戸の出入り口には煤けた縄暖簾、黄色いパトランプのついた電光看板には『やきとり ハナ』の文字。
いつもなら昼前からパトランプが回り、煤けた換気扇から焼き鳥の匂いの煙が勢いよく道にまで吐き出されているはずの店の前は、今は静まり返っている。
夕暮れの少し冷えた風が路地に流れ込む。
店の軒先に吊るされた風鈴が涼やかに鳴る。
店の前にはビールケースの上に板を乗せただけの簡易ベンチが置かれている。ベンチの前に置かれた七輪の中には、真っ赤に熾った炭。
軽い音を立てて店の引き戸が開く。電気も灯らぬ店内から、熊じみた容貌の店員が生ビールのジョッキを片手、もう片手に切り身の魚を盛った皿を載せてのっそりと出て来て、
「ああ、こんばんは」
その強面に似合わず愛想よく笑んだ。
「エアコンが壊れてしまいましてね。今日は臨時休業です」
「あらあら、お客さん? ごめんなさいねえ」
二階で住居も兼ねているらしい店の奥から、団扇を片手、浴衣姿の女将が顔を出す。
「あんまり大したものはお出しできないけれど、良かったら今日出す予定だったものでもつまんで行ってくれない?」
「酒の一杯も付けますよ」
「お酒がだめなら梅ジュースでもどうかしら」
ちりん、と風鈴の音がする。
どうしようか、と日暮れの色に染まる路地を眺めて、――淋しい色した路地の向こう、いつかのあの日、迎えに来てくれた懐かしいあの人の姿を見た気が、した。
こんにちは。
毎日暑いですが、夕涼みしながら焼き鳥でもどうですか。
時期も時期ですので、もしかしたらもう居ないはずの懐かしい誰かがこっそりあの世から帰って来てたり、うっかり一緒にお酒飲めたりするかもしれません。
その場合、女将達は何にも知らぬ顔で静かに夕涼みしてます。居ないのとおんなじです。でも頼めばお酒もおつまみも出してくれます。
懐かしい人の気配を何故かしら感じながら、姿はみることが出来ず、思い出すだけ思い出してその人のことを偲んでみるのもありかもです。
もちろん、そういうのはナシで、居合わせた人達と夕涼みしつつわいわいと酒盛りするのも楽しそうです。
七輪で魚焼きましょう。お肉も焼いちゃいましょう。
女将が胡瓜や茄子の糠漬けやら出してきます。調子に乗った店員が自分用の一升瓶を持ち出したりします。
そういうわけで、寝子島でのそんな夕暮れのひととき、いかがですか。
ご参加、お待ちしております。